ミッションたぶんPossible

どこにでもいるシステムエンジニアのなんでもない日記です。たぶん。

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之三:最初の遍路ころがし

第六番札所:安楽寺

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 宿坊にて6時起床。起きたというより、周りが出発の準備で騒がしくなったことで起こされた。あと30分は寝ていたかったのだが。


 お遍路では納経所での御朱印の提供は朝7時から始まるらしい。さすがにそんなに朝早くからやってないだろうと半信半疑で向かうと、本当に受付の人が準備万端で待っていた。お遍路恐るべし。


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 空はまだ暗いが、お遍路さんの朝は早い。第七番札所に向かう途中、この旅で初めて歩き遍路の方と何人かすれ違った。安楽寺に向かっているということは、逆打ちをされているということだろう。逆打ちについてはまた後ほど。

第七番札所:十楽寺

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 次の札所にはあっという間に着いた。こちらもすでにお参りされている方が数人。いまいち眠くて唱える般若心経がおぼつかない。


 般若心経を唱えながら頭をよぎったのはデレステの譜面だった。お経を唱えるのとデレステは共通項があるのかもしれない。体調に左右されたり、難しい課題のポイントで毎回つまずいたり、逆に難しそうなのにサラッとクリアできるポイントがあったり。Cygamesが般若心経の譜面を起こしたら案外オレと同じことを感じてくれる人がいるかもしれない。そしたらどのアイドルが読経するのだろうか?本命で依田芳乃か小早川紗枝、大穴で神崎蘭子ってところだろうか。


 なんてくだらないことを考えていたら、水筒を安楽寺の宿坊に忘れていたことに気づく。急遽逆走。


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 暦は12月なのに徳島は暖かい。オレの故郷の長野県ならとっくに霜が降りていてもおかしくない。稲刈りが終わった田んぼには、時折ピンクの綺麗な花が咲いていた。故郷にいた頃は花なんて見慣れていたのに、それを見て心惹かれるようになったのは東京に出てきてからだと思う。そんなわけでオレには花の名前は分からない。たぶん食べられないとは思う。

第八番札所:熊谷寺

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 「くまたにじ」と読む。「くまがい」ではない。駐車場につくと地元の方とおぼしき老人たちが井戸端会議をしていた。なにもこんな朝早くに集まってだべってなくてもいいのに。


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 空は昨日と打って変わり、見事な快晴。自転車で走っていると、とても気持ちが良い。

第九番札所:法輪寺

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 法輪寺の前では托鉢の方を見かけた。服装はお遍路さんと同じなので、僧侶かどうかは分からない。そういえば、托鉢には免許が必要、とどこかで読んだことがあったが、彼が免許持ちかどうかはさすがに分からなかった。

第十番札所:切幡寺

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 このお寺は山の上の方にあるので、散々登り坂を登った上、駐車場から333段の階段を上がらなくてはいけない。なかなかしんどい。境内では先客の老婆が朗々とご真言と般若心経を唱え、軽快に石段を上り下りしていた。あんなかっこいい老人になりたいものだ。毎日この石段を上り下りしていればあんな老人になれるのだろうか。

第十一番札所:藤井寺

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 オレが到着してしばらくして団体客がやってきた。おそらくバスツアーなのだろうが、ビックリしたのは納経所。女性が20冊はあろう納経帳の束を受付に積み上げていた。おそらく彼女はバスツアーの添乗員で、全員分の御朱印を代理してもらっているのだろう。なんか情緒がないけど、そういうものなんか?

第十二番札所:焼山寺

 ここから次の焼山寺までは「遍路ころがし」と呼ばれる、四国八十八ヶ所参りでも有数の難所だ。歩き遍路なら15km程度だが、車や自転車では40km近く大回りすることになる。登る標高は変わらないので、どちらを通っても急勾配には必ず出くわす。つまり、自転車が最も不利なわけでして。


 はじめの10kmくらいは比較的平坦で、自転車でも問題なく移動できる。辛いのはそこから30kmが全部上り坂ということ。


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 周りは見渡す限りの山。前述の通り四国は暖かいが、標高が高くなれば紅葉も幾分進んでいる。晴れているので景色は美しいが、残念ながらそれを愛でている余裕はない。


 しばらくして上り坂のコツをなんとなく掴む。一番軽いギアに入れること、進むスピードよりも息や足に苦痛が出ないことを優先すること(それでも自転車を押して歩くより早い)、あまり前を見ず、5m程度前を見ること。あまり先を見すぎると続く上り坂に絶望しかしないので、一歩一歩前に進むことだけを優先する。どうしても辛くなったら躊躇なく休んだり自転車を降りて押して歩くこと。長旅なのだ、無理して最後まで完走できない方がよっぽどまずい。
 こうやって書くと、なんだか人生の教訓みたいだ。お遍路とは人生である、知らんけど。


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 道中で見かけた変な人形。4K動画祭とか看板があった気がするが、調べてる余裕はなかった。


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 残り12kmほどの位置にある道の駅:神山。ここで休憩がてら昼飯。なんとなく頼んだ天ぷら蕎麦は、蕎麦については信州人の端くれとして及第点を与えることはできないが、野菜の天ぷらはとても美味しかった。どうも四国は香川に限らずうどんの方が美味しいらしいので、うどんを食っておけばよかったと後から後悔。
 一時間ほど休憩するついでに、昨日の雨で浸水したトレッキングシューズを乾かす。スニーカーと違って走りながら乾くということが一切ないので、ここまでなかなか不快だった。もちろん完全に乾かすことはできなかったが、幾分はマシになったと思う。


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 道中見つけた野生の猿。道端の柿を狙っていたらしいが、オレが来たことですっかり臨戦態勢に入ってしまった。とはいえ、臆病らしくて襲ってくるようなことはなく、遠巻きにオレのことを眺めているようだった。


 ここでマシントラブル。全然スピードが出ないと思ったら後輪の空気が全然入っていなかった。仕方なく広めのスペースを道端に見つけ、急遽荷物を下ろしタイヤをチェックする。すると、なんと細い2cmほどの針金が後輪のタイヤに刺さっていた。これが原因でパンクしたのだ。針金を抜き、チューブをタイヤから引きずり出してパッチを当て、空気を入れ直す。
 なんとかパンクの修理をすることはできたが、実際に乗るとどうも後輪がグニャグニャする。おそらくは修理でタイヤをホイールから剥がした際に無理に力をかけたので、タイヤ自体の劣化が進んでしまったのだろう。今回の旅では事前にパンク対策はしっかり行っていたが、残念ながらタイヤにまで気が回らなかった。東京を出る前に交換していれば……。
 悔やまれるが、今更どうしようもない。しばらくこのままでやり過ごして、大きな都市に出た際に自転車ショップを探してタイヤ交換をするしかなさそうだ。運転していると後輪がずれる感覚があるので、これまで以上に気をつける必要ができてしまった。

 一時間ほどのタイムロスは痛かったが、仕方ない。修理で真っ黒になった手で再び坂の上を目指して自転車を押し始める。


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 途中「杖杉庵」という遺跡を見つける。
 なんでもその昔、衛門三郎という欲深い男が托鉢に来た弘法大使様に腹を立て、鉢を叩き割ってしまったが、翌年から自分の子供が次々と病死するのを見て後悔し、弘法大使様を追いかけてお詫びを言おうとしたそうな。衛門三郎は20回お遍路を回ったが弘法大使様に会えず、21回目で逆回りにお遍路を回り、ついに力尽きて倒れたところに弘法大使様が現れたという。衛門三郎が最期に弘法大使様に会え、息を引き取ったのが焼山寺近くの「杖杉庵」だと言い伝えられているんだそうな。
 以上、ガイドブックからの引用終わり。


 というわけで、四国のお遍路には、一番札所から時計回りにお参りする「順打ち」と、逆に回る「逆打ち」がある。お遍路は順打ちを想定して道が整備されており、逆打ちはと比べて非常に困難である。衛門三郎が逆打ちで弘法大使様に会えたという伝承も相まって、一般的に逆打ちは順打ちよりご利益がある、とされている。一説には逆打ちは順打ちの3倍ご利益がある、と言われているそうだ。閏年の年はそれがさらにボーナスタイムで、もっとご利益があるらしい。昔、逆打ちで死者を蘇らせる「死国」という映画があったが、今考えるとちゃんとお遍路のこと調べて作ったのか怪しい気もする。ホラー映画が嫌いなオレは確認のために敢えて見たいとはかけらほども思わないけど。


 最後の5kmはひたすら急勾配の上り坂。とても自転車に乗っていくことはできない。息も絶え絶えにひたすら自転車を押して歩く。ここの道程はあまりに辛すぎて思い出したくない。


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 第十二番札所:焼山寺に着いたのは16:30。ギリギリだ。納経所の受付の方と話すと、自転車でここまで来るのがやはり一番シンドイらしい。さもありなん。


 疲労困憊すぎてとてもテント泊をやれる気になれなかったので、昨晩に引き続き宿を探す。ここに来る途中通り過ぎた場所で、第十三番札所:大日寺への道の途中になるところに、神山温泉という温泉宿を見つけた。電話したところ、飛び込みでもOK、一泊二食付きで11,000円弱とのことだった。正直この出費は痛いが、今のこの疲労を引きずるわけにもいかないので、今晩はここを宿にすることにした。


 宿への道中は今必死で登ってきた坂を一気に下ることになる。日中明るければそこそこ楽しかっただろうが、17時を過ぎれば日は完全に落ち、気温は一気に下がっている。当然道に外灯はない。相当なスピードが出る下り坂を闇夜の中二輪車で走る恐怖がわかるだろうか? 「この長い長い下り坂を いっぱいの荷物を自転車の後ろに乗せて ブレーキいっぱいにぎりしめて もマッハでマッハで下ってく」などと「ゆず」の名曲の替え歌を考えてたら、危うく道路のわずかなくぼみに引っかかって吹っ飛ぶところだった。もしバランスを崩していたら、確実に死んでいただろう。無事に宿にたどり着け温泉と暖かい料理にありつけたことは、弘法大使様のお導きというほかあるまい。

この日の走行距離

  • 66.9km(+歩き9.5km)