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ミッションたぶんPossible

どこにでもいるシステムエンジニアのなんでもない日記です。たぶん。

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之十:真夜中ダウンヒル

四国八十八か所参り

四十一番札所:龍光寺

 6時起床。東京でのオレの生活を振り返ると、信じられないほど早起きだが、早起きというよりは、早寝なのだ。疲れ切っているからあまり遅くまで起きていることができない。昨晩も早々に意識を失っていた。早く寝るから早く起きる。睡眠時間は旅の最中、5〜6時間くらいとあまり変動は無かった。ちょっと足らないくらいだと思うが、日中眠気が襲ってこないのは、退屈している暇が無いからだろう。


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 この日最初の目的地:龍光寺までは宿泊したホテルから10km程度。まだ暗いうちから自転車を走らせると、ちょうと日の出頃に龍光寺を打つことができた。


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四十二番札所:佛木寺

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 次の仏木寺までは5km程度。特にアップダウンもなく、平坦な道なので、30分程度でたどり着いた。境内ではお遍路ツアーの老人たちが般若心経をコーラスしていた。
 お遍路で各札所を打つ時にはマナー、というか手順がある。

  1. 山門(仁王門)で合掌・一礼
  2. 手水場で手を洗い、口をすすぐ
  3. 鐘楼堂で鐘をつく(寺によっては鐘がつけないので、その場合は省略可)
  4. 本堂でお詣り
    1. 納め札を納める
    2. ろうそくを1本捧げる
    3. 線香を3本立てる
    4. 合掌して三礼
    5. 開経偈(かいきょうげ)を1回唱える
    6. 懺悔文(さんげもん)を1回唱える
    7. 三帰・三竟を3回ずつ唱える
    8. 十善戒を3回唱える
    9. 菩提心真言を3回唱える
    10. 摩耶真言を3回唱える
    11. 般若心経を1回唱える
    12. ご本尊(寺ごとに異なる)の真言を3回唱える
    13. 光明真言を3回唱える
    14. ご宝号(南無大師遍照金剛)を3回唱える
    15. 回向文を1回唱える
    16. 合掌礼拝
  5. 大師堂でお詣り
    1. 納め札を納める
    2. ろうそくを1本捧げる
    3. 線香を3本立てる
    4. 合掌して三礼
    5. 開経偈(かいきょうげ)を1回唱える
    6. 懺悔文(さんげもん)を1回唱える
    7. 三帰・三竟を3回ずつ唱える
    8. 十善戒を3回唱える
    9. 菩提心真言を3回唱える
    10. 摩耶真言を3回唱える
    11. 般若心経を1回唱える
    12. 光明真言を3回唱える
    13. ご宝号(南無大師遍照金剛)を3回唱える
    14. 回向文を1回唱える
    15. 合掌礼拝
  6. 納経所で御朱印をいただく
  7. 山門(仁王門)で合掌・一礼

 これだけの手順が本当はある。あるのだが、時間的制約もあるのでそんなのやってられないし、納め札はともかくとして、ろうそくや線香のような壊れやすいものを自転車で積んで回るのはそもそも難しい。なので、最低限のマナーとして、本堂と大師堂で般若心経だけは唱えて、御朱印を頂くようにしている。本当はキチッとやった方がいいだろうが、本堂で手しか合わせない人もいるので、それに比べれば納経もしているわけだし、ナンボかマシだろう。


 打ち終えて自転車まで戻ると、ちょうど仏木寺に着いたばかりの歩きお遍路の女性(40代後半?)に声をかけられる。「自転車で回るのは大変でしょう?」いやいや、歩き遍路の方に比べれば全然ですよ、と思ったとおりのことを返したら、思い切り笑っていた。なんとなく思うところがあったのだろうが、オレにはよくわからない。

四十三番札所:明石寺

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 距離は15km程度と短いが、またもや峠越え。しかも車なら通れる無料の高速道路が、自転車は通れない。大きく迂回し、2つほど峠を超える羽目になった。これから超える峠を見上げたとき、「本当にこれを登るのか?」「他に迂回路はないのか?」散々迷ったし、回避策を散々探したが、無かった。結局のところ、前に進みたければ困難からは逃げられないらしい。
 かなり必死に登らればならなかったことと、木々が鬱蒼としていて景色があまり良く無かったこともあり、この道では写真をあまり撮っていない。上の写真は峠に差し掛かる前のものだ。


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 明石寺に着くと団体客が境内に溢れかえっていた。彼らはバスで、オレの行けなかったあの高速道路を通ってきたのだろう。心底羨ましい。お遍路をやれば精神修行になるというが、本当のところはどうなんだろうか? オレは訳のわからないところで勝手に理不尽な目にあい、訳のわからないことで勝手に他人を恨んでいる気がする。解脱には程遠い。


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四十四番札所:大寶寺

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 次の大寶寺(大宝寺とも)までは約80kmのロングライド。またもや峠越え。愛媛県はオレに優しくない。


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 途中の道の駅で食べた芋煮うどん。気温はかなり低いが、汗対策のため薄着をしているオレにとって、こういう温かい料理はありがたい。
 これを食べ終わって駐車場に出ると、若い女性が自転車のところで待っていた。彼女は愛媛新聞の記者で、県外の人から「愛媛の魅力」についてインタビューをしているらしい。オレの自転車の荷物に目をつけ、旅行者だとあたりをつけて声をかけたそうだ。さすが新聞記者、良い読みをしている。
 とはいえ、オレも愛媛入りしたのは前日だ。愛媛のことなんて、正直何もわからない。飯だってコンビニでしか食ってない。今食べたばかりのうどんの感想でも言えばいいのだろうか。すると彼女がオレのカメラに注目して「写真を撮られるんですか?」と聞いてきた。そうだ、確かに愛媛県に入ってからはよく写真を撮っている。高知同様に海と山が近く、天候に恵まれたこともあって、休憩がてら何度か足を止めてシャッターを切っていた。そのことを伝えると、「ではそれで!写真も撮らせてください。」と頼まれ、フリップを渡された。オレはそれにデカデカと「絶景」と書き、自転車と一緒に彼女の向けるNikonに笑顔を向けた。
 写真と記事は1/02の愛媛新聞の特集として掲載されるらしい。オレがこれを見ることはおそらくあるまい。が、良い記事になることは願っている。


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四十五番札所:岩屋寺

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 次の岩屋寺もやはり峠越え。しかも、岩屋寺を打ったあとは松山市に移動しなくてはならず、そのためには同じ峠を越えて戻らなくてはならない。こういうのが精神的に一番堪える。必死の思いで登って下りて、もう二度とあんな思いをしたくないと思った矢先に、もう一度その登って下りてを反対からやらなくてはならない。自分で掘った穴をまた埋め戻す作業をさせられているようだ。


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 とはいえ、峠自体はなんとか1時間弱で超えることができた。できたが、岩屋寺に着いてからさらに難関が。岩屋寺はその名の通り岩崖に建っており、本堂にたどり着くのに20分以上、急な階段を登らなくてはならないのだ。なんたる罠、なんたる拷問。


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 岩屋寺を打って下りてくる頃には、17時にさしかかろうとしていた。本日のタイムリミット。


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 岩屋寺の帰り道でみつけた看板。売り文句にインパクトがありすぎる。時間が遅く既に閉店した後だったが、もし購入可能だったら試してみたいところだった。



 この後が大変だった。
 前述の通り、まずは岩屋寺に向かうために超えてきた峠を超えた。この時点で18時。
 そこでまずは松山市内のホテルを予約し、確保できたところで国道33号線を通り松山市を目指す。この松山市への道が困難を極めた。


 基本的に宇和島から松山に抜けるには、高速道路を使うしかない。が、自転車は当然通れない。自転車が松山市に行くためには、国道33号線を通り峠越えをする必要がある。しかしこの峠道がきつい。最初10kmぐらいはひたすら上り坂。しかも、街灯が全く無い。車通りも全く無い。闇夜の山奥で、オレはたった一人。自分の荒い息遣いだけが周囲に響く。真っ暗な中、自分の自転車のライトが照らす灯りだけを頼りに必死で登る。
 と、今度は突然の下り坂。それも登ってきたよりはるかに長い。感覚的には20kmくらいはあったと思うが、実際にはわからない。日が暮れて急激に下がった気温、汗でびしょ濡れの体、時速50kmはあろうスピードで下る自転車。大声で「寒い!」を連呼しながら、真っ暗闇を独り自転車でダウンヒル
 頭によぎったのは「頭文字D」だ。あいつら車でこんな急勾配を猛スピードで下ってくなんて、頭がどうかしてる。そういえば最後まで読んでない。東京に戻ったら漫画喫茶で一気読みでもしてみるか。猛スピードへの恐怖に打ち勝つために、そんな下らないことを考えていた。


 坂を下りきったらもうそこは松山市。そこから10kmほどさらに走って、松山駅近くのホテルにチェックインできたのは21時頃だった。


この日の走行距離

  • 157.7km(+徒歩:5.8km)

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之九:愛媛へ

四国八十八か所参り

三十八番札所:金剛福寺

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 6時起床。寒い。ジョン万次郎像が朝日を浴びている。テントをさっさと片付けると、ほぼ目の前にある金剛福寺にお詣りする。朝霧立ち込める中お寺を参拝するのは幻想的で気持ち良いが、正直に言えばスッゲー寒い。


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 せっかく足摺岬にきたので、ちょっとタイムロスにはなるが、足摺灯台も見ていく。ここから見る朝日は本当に素晴らしかった。


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 ふと目を下にやると、小島に人がいるのが見える。どうやら釣り人らしい。あの根性、見習いたい。

三十九番札所:延光寺

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 この旅で初めて「善根宿」を見つけた。お遍路さんなら無料で泊まれる、非常に簡易的な施設だ。有料宿泊施設とは異なり、トイレや水道が無かったりすることも珍しく無いらしい。とはいえ、野宿を経験した人間からすると、雨が防げるだけで十分ありがたい。四国には善根宿や休憩所などお遍路さん向けのちょっと施設が道のいたるところにある。四国にお遍路が定着している証だろう。


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 昨日も見かけた、落石防止壁の苔を利用した交通標語……の作りかけなのだろうか。あるいは途中で諦めてしまったか。


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 次の延光寺までは約60km。また峠越えですよコンチクショーめ。途中、山あり谷ありダムあり。景色が素晴らしいのは、苦労して登った証です。


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 延光寺には赤いスカーフをほっかぶりにしたご婦人の集団がいた。どうやら炊き出しをしているようだが、お遍路とは関係無いっぽい。何をやってるのだろう?

四十番札所:観自在寺

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 観自在寺に向かうトンネルの手前に愛媛県との県境があった。ここからは伊予国、土佐とはお別れだ。


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 観自在の納経所で、御朱印を授けてくれた、おそらく50〜60歳くらいだろう男性から声をかけられる。「兄ちゃん歩き遍路か?」自転車だと答えると「そんなペラッペラな格好で寒そうやな」と言われた。確かにオレはその時、ウインドブレーカーがわりのペラッペラのトレーニングパーカーの下に、ユニクロヒートテックの長袖シャツを着ているだけだった。正直寒い。が、上り坂でどうせ汗をかくので、これ以上着るとかえって汗の始末が面倒になってしまう。寒さを我慢して、坂を登ることを重視した結果、真冬には異常な薄着をせざるをえなかった。
 そのことを説明すると、納得したのかしないのか、続けて「今日はどこで泊まるん?」と聞いてきた。次の龍光寺にはさすがに間に合わないが、できれば宇和島まで出て、龍光寺の付近で宿を取れたら、と目論見を伝えると、親切に宇和島市内の宿泊施設を教えてくれた。宇和島市内の宿泊施設のリストをくれ、ここは安い、ここは龍光寺に近い、ここは遠いからダメ、ここは高い、などなどメモ書きを入れてくれる。丁寧に教えてくれたことに感謝を伝え、観自在寺を後にする。心遣いが本当に嬉しい。嬉しいが、実は既に宇和島駅前のホテルを予約済みだとは言えなかった。


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 観自在寺から宇和島市までは40km程度。また峠越え。


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 いくつめかの峠を超えている最中、トンネルの手前、上り坂の途中の交差点で銀色の自家用車が止まっていた。邪魔だなぁと思って迂回しようとすると、車の中から声がかかり、呼び止められる。自転車を止めると、車から60歳くらいの女性が降りてきた。「これあとで食べてなさい。頑張ってね。」そう言ってクッキーの入った袋とみかんをいくつかくれた。わざわざこれを渡すために坂の上で待っていてくれたのだ。嬉しさで感謝の言葉がうまく出てこない。なんとかお礼の言葉を絞り出すと、走り出した銀色の車が見えなくなるまで見送った。
 オレにとって見知らぬ土地:四国に来て、オレは確実に人と話す機会が減った。しかし、孤独を感じることは全くなかった。むしろ、東京にいる時より、人との縁を強く感じる。四国にはお遍路さんを大切にする文化が根付いている、とは以前から知っていた。が、知ってるのと自分で体験するのとは訳が違う。人と接し、人の親切を目の当たりにすると、その有り難みをひしひしと感じる。
 お遍路に来る前、東京で見た映画「君の名は。」の、とあるシーンを思い出す。ヒロインの祖母:一葉の言葉「結び」。人との「結び」、土地との「結び」、弘法大師との「結び」、誰かがずっと紡ぎ続けた組紐をたどって、オレは今ここにいる。たぶんオレ自身もその組紐を紡いでいるのだろう。オレが受けた恩を誰かに繋いでいくことはあるのだろうか? あればいいな、と素直に思う。見えない組紐が誰かにつながっていることを思い浮かべて、また坂の上に自転車を向けて走り出す。


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 宇和島市内の予約したホテルにチェックインした頃にはすっかり日が暮れていた。宇和島は鯛飯が有名らしく、できれば食べたかったが、荷物の整理やら色々やっていたら駅前の店は全て閉店してしまっていた。せっかく駅前のホテルなのに、晩飯はコンビニ弁当。鯛飯が食えなかったのは残念だったが、まぁそのうち別の街でなにか美味いものも食えるだろうて。
 先ほど接待で頂いたクッキーとみかんもこのとき食べた。この「結び」を糧に、明日も朝から走り出す。

この日の走行距離

  • 125.8km(+徒歩:3.3km)

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之八:足摺岬へ

四国八十八か所参り

三十七番札所:岩本寺

 6時起床。相変わらず風の音で細切れでしか寝られなかったが、コンディションは悪く無い。一回目の野宿の教訓が活かされている。


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 この日最初の目的地である岩本寺までは60km。相変わらずの峠越え。とりわけ七子峠という峠が大きく、乗り越えるのにずいぶん苦労した。10kmも上り坂が続くと、正直心が折れる。何度「もうここでやめちゃおうかな」と思ったか分からない。
 自転車で旅することは坂との戦いでもある。ここまで走り続けていると、さすがにアップダウンの続く道の走り方をだんだん心得てきた。上り坂と下り坂は基本的にワンセットだ。上り坂があれば下り坂がある。下り坂があれば上り坂がある。上り坂だからといって悲観してはいけないし、下り坂だからといって楽観してはいけない。心をフラットに保って、長く走ることを見据ええる。でも先を見過ぎないで、目の前に注力して走る。なんだか人生みたいだ。


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 そういえば、七子峠の頂上のトイレで、初めて携帯シャワートイレを使った。東急ハンズに売っていた1,000程度のもので、水道水を入れてソフトな本体を押すと先端のノズルから水が噴き出す、というシンプルな構造。使ってみた感想としては、その機能自体は悪く無い、2〜3回練習すれば、通常の備え付けのウォシュレットと変わらない感覚で使えるだろう。
 唯一失敗だったのは、このトイレの水道水を使ったこと。この日は特別寒く、峠の頂上ともなれば気温は一桁前半しかなかった。そんなところで入れた水道水を直接肛門に当てた日には……。ケツの穴が凍りつくかと思った。


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 なんとか岩本寺を打つと、次の金剛福寺までは約90km。時刻はまだ10時だが、おそらく17時までに金剛福寺にたどり着くことは不可能だろう。とはいえ、目指さないわけにも行かない。
 これだけの距離があると、当然いくつも峠越えをすることになる。自動車が峠越えを行うための道路には、大抵「スカイライン」とか「サンロード」とか、カタカナの名前がついている。こういうろくでもない名前のついた道路があったら要注意!ということを学んだのも、金剛福寺に至る道のりでだ。坂なんか大嫌いだ。


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 浜で奇妙な装置を見かけた。ビル数階分の高さの建物(?)に網が張り巡らされ、上から水が流されている。おそらくは「塩」を作っているのだろう、水は海水で、それを蒸発・濃縮して塩を取り出そうとしているのでは無いかと思われる。オレは山奥の育ちなので、こういう装置を見るのは初めてだった。


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 途中の道の駅で食べた「カツオ叩きバーガー」と「しらす丼」。カツオ叩きバーガーはさっぱりしていて美味かった。しかも値段もそれほど高くない。これが毎日朝食でも悪く無い気がする。しらす丼は、よく湘南あたりで有難がって出してるところがあるけど、「めちゃくちゃ美味い!」というようなものでもないよなぁとは思う。値段がもっと安かったら、こちらも朝食メニューでもいいかなとは思うけど。


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 足摺岬に向かう途中の道路で見つけた、一見するとよくある標語。実はこれ、セメントの壁に彫っている、とかではなく、何十年も堆積した苔を剥がして標語にしているらしい。これはなかなか面白い試みだ。コストもかからないし、良いアイディアだと思う。


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 結局、金剛福寺のある足摺岬に着いたのは17時を少し回った頃だった。岬があれば灯台があるだろうし、海を臨む公園があるはず。そのように見込んでいたが、予想通り足摺灯台の近くに公園があった。この公園のトイレの裏をこの晩の野宿の場所とした。まさかの二晩連続野宿だが、慣れたのかテントの設営にも準備がかからず、さっと準備できるようになった。人間訓練すればなんでもできるようになるもんだ。食欲よりも疲れから来る眠気が勝ったため、食事は取らず20時には就寝。風の音にも慣れたのか、だいぶ熟睡できるようになった気がする。

この日の走行距離

  • 149.3km(+徒歩:2.2km)

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之七:高知市内

四国八十八か所参り

二十八番札所:大日寺

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 6時半起床、8時出発。ダラダラしすぎた。高知市内は基本的に平地だが、この大日寺は丘の上にある。つまり、また山登り。最後500mくらいだが、朝一山登りはさすがにしんどい。麓の駐車場に自転車を起き、体一つで坂を登ってお詣りを済ます。

二十九番札所:国分寺

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 どうでもいいが、「国分寺」という名前のお寺が多すぎじゃないだろうか。四国霊場八十八ヶ所だけでも4つのお寺が国分寺を名乗っている。どうせなら最御崎寺のように個性的な名前を名乗る気概を見せて欲しい。……どこの国分寺だか分かんなくなっちゃうんだよね。


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 ふと祀ってあるお堂のわきにお供えしてある千羽鶴に目をやると、切なるメッセージが記されていた。どちらも人事を尽くしても叶うかどうかは分からない願い。そういう神仏にすがらざるをえないような願いを叶えるため、みんなお遍路を打つのだろう。
 これを見ると、「面白そうだから。」というお気楽極楽な考えからお遍路を始めた自分に、それを続ける資格や覚悟があるのかを問いただされているような気になる。欲はあれど神仏に叶えてもらうつもりはなく、願いはなく、信仰もない。極論を言ってしまえば、オレにとってお遍路は御朱印を集めるためのスタンプラリーに近しいチャレンジなのかもしれない。それでは決死の覚悟でお遍路を打ってきた先人に失礼にあたるのかもしれない。
 それでも、オレはやると決めたのだ。もし何か意味があるとしたら、終わった後に何か気づくかもしれない。気づかなくても得るものはあるかもしれない。資格も覚悟も足らないかもしれないが、それでもその先にあるものを見てみたいという欲ならある。今はとりあえず88箇所全て回ろう。後のことは後で考える。どうせ今考えたって答えなんか出ない。

三十番札所:善楽寺

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 平地で距離も短いので、さらっとしれっと。みんなこんな感じなら楽なのに。それじゃ修行にならないけど。


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 途中で見かけた路面電車路面電車を見るとなぜか懐かしさを感じる。路面電車なんて上京する18まで見たことさえなかったのに。

三十一番札所:竹林寺

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 ……などと油断してると、突然の山登り。ハイパーしんどい。オレが必死で坂を登っている時、おばあちゃんたちが満載の観光バスが唸り声をあげて追い抜いていった。足の弱った人でも回れるのが車遍路の利点ではあるが、本来の意味の修行やご利益という点ではどうなんだろ?

三十二番札所:禅師峰寺

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 その名の通り、山の山頂にあるお寺。もう坂道ばっかりで勘弁して欲しい。

三十三番札所:雪蹊寺

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 禅師峰寺から雪蹊寺の途中、というか、ちょっと寄り道したところに、海に向かって立つ坂本龍馬像があるらしい。できれば見に行きたいと考えていたが、像が立つ場所が岬の先の山の上だと知り、光の速さで断念した。これ以上山なんか登ってられるか!
 その手前の海橋はかなり長く傾斜もきついのだが、よりにもよってこのタイミングで工事なんぞをしていやがった。年末になると工事が多くなるのは高知県も一緒らしい。おかげで歩くのが精一杯の狭い歩道を、自転車を押して歩くこともできず、またいだままチマチマ歩いて渡るハメになった。


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 雪蹊寺の境内では露店、というにはずいぶんラフな物売りがいた。なんでもやってるんだな。

三十四番札所:種間寺

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 海岸沿いから一転、山の中へ。海と山が近いのが四国の特徴かもしれないが、高知県はその落差が顕著だ。

三十五番札所:清瀧寺

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 「清龍寺(せいりゅうじ)」だと思ってたら「清瀧寺(きよたきじ)」だった。これも山の中。坂なんか大嫌いだ。

三十六番札所:青龍寺

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 青龍寺は出島のような半島のような場所にある。大橋を渡り海岸線沿いを走って寺に至る。石段が妙に長くて、山道を散々走ってきた体には非常に堪える。


 この青龍寺でこの日は終了。次の岩本寺まで行くことも考えた(実際宿坊に泊まれないか電話したが、満室だった)が、60km近く山道を走ることになるので、断念。


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 この日は海岸沿いに大きな公園があったので、そのトイレの裏、目の前に土佐の海が広がるロケーションを野宿の場所に選んだ。21時くらいまで暴走族っぽいのが何度か公園の駐車場までやってきて爆音を立てていたが、トイレの裏にまでは興味を持たなかったらしく、特に絡まれたりすることがなかったのは助かる。また、海風のおかげか、気温も若干暖かく(とはいえ気温一桁台だが)、夜露も降りず、テント内に結露もつかなかったため、最初の野宿と比べてずいぶんと快適だった。できれば雨天対策に東屋の下にテントを張りたかったが、猫の集会所になっていたので遠慮しておいた。結果目立たない位置にテントを張ったので、暴走族に絡まれなかったことを考えれば良かったのかもしれない。トイレがあったので水がいくらでも確保できたのも良かった。野宿をするなら海沿いのトイレのある公園に限る。

この日の走行距離

  • 85.4km(+徒歩:8.5km)

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之六:負債の返済

四国八十八か所参り

二十六番札所:金剛頂寺

 6時起床、8時半出発。この日は昨晩走り続けた道を引き返してお遍路を打たねばならない。その距離:75km。そのため、昨晩泊まったホテルは、チェックイン時点で既に2連泊に変更しておいた。この日は荷物を置いたまま遍路を打つことができる。山登りが2連続と分かっているだけに、荷物が置いていける=軽い自転車で山登りができる、というのは大きなアドバンテージだ。


 そういえばここまで言及していなかったが、お遍路というものは「回る」「詣る」ではなく、「打つ」というらしい。「打つ」と言えば、オタ芸も「踊る」ではなく「打つ」ものなのだそうだ。ひょっとしたらオタ芸の「打つ」もお遍路からインスパイアされているのかもしれない。神たるアイドルに捧げるオタ芸。弘法大師に導かれ、修行と御仏への祈りを捧げるお遍路。どことなく共通点があるではないか。……無いな。自分で言っといてなんだが、一緒くたにしちゃダメだわ。


 金剛頂寺に向かう途中、老婆を助ける。
 水分補給のための休憩を終え、走り出そうとすると、道の反対側で老婆が転倒し、車道に転げ落ちそうになるのが見えた。どうやら手押車を支えに歩いていたようだが、歩道のわずかな坂に手押車が加速し、ついていけずに手押車に引きずられるように転んでしまったようだ。たまたま車の通行が途切れたこともあり、即座に車道を渡った自転車を降り、老婆と手押車を車道から歩道に引き上げる。老婆は気が動転してるのか、足がもつれたままで手押車の取っ手に手を伸ばし、立ち上がろうとしていた。当たり前だがそんな状態で立ち上がれるわけがない。
 オレが老婆を落ち着かせようと苦心していると、その様子をたまたま見ていたご婦人が車から降りてきて手助けをしてくれた。手押車に備え着いた椅子を起こし、座って落ち着くようになだめる。オレは十年位以上前に自身がライフガードだった時に覚えた救助法の要領で、後ろから老婆を抱え、持ち上げて椅子に座らせた。老婆は見た目以上に重かった。かつてライフガードの時にも体験したが、要救助者に意識があるか無いかで、その人の重さは全然違ってくる。見た目以上に重く感じたというのは、おそらく老婆がパニック状態で、こちらの動作に対して能動的でないからだろう。
 結局、この老婆の旦那さんに迎えに来てもらうことで事態は収束した。ご婦人が老婆から名前と電話番号を聞き出し、オレが老婆の自宅に電話をかける。すると5分ほどで旦那さんが車で迎えにきてくれた。老婆は転んだ際にひざを擦りむき出血していたが、他にぶつけたところはなく、歩くのにも支障はなさそうだった。(怪我など無くても元々歩くのがおぼつかなくはあったが) 老婆が乗った車を見送ると、オレは手伝ってもらったご婦人にお礼を言い、再び昨晩走った道をひた走る。先ほどより軽快に走れているのは、一連のトラブルがちょうど良いタイミングの休憩になったから、だけでは無いと思う。


 金剛頂寺に着いたのは12時過ぎだった。若干のトラブルがあっても4時間程度で75km走れたのであれば、タイムとしては悪く無い。


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二十七番札所:神峯寺

 今走ってきた道を30km戻り、さらにそこから3kmほどの山道。辛い。が、荷物が無い分、まだマシなのだろう。それでも辛い。


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 到着したのは16時前だった。やっぱり山登りは想定より時間を取られる。可能であれば次の大日寺も打ちたかったが、あと1時間で40kmを走るのは無理だ。どうやらこの日はここまでだ。


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 昨日の予定では、本当はこの神峯寺まで打つつもりでいた。実際に走ってみて、それがいかに無謀な計画だったかがわかる。


 オレは都内を自転車で走る時、だいたい25km/hで計算している。自宅から会社までが25km、それを1時間で走ることができるからだ。今回は荷物もあったので20km/hで計算し、計画を立てていた。が、実際に20km/hで計算すると、最後の1つ2つのお寺を打てずにその日を終える傾向がここまであった。どうやら20km/hは現実的なベロシティとは言えないらしい。以降、15km/hに修正し、計画を立てていったが、山登りや峠越えなどで若干の狂いはあったものの、その後概ね計画通りに進めるようになる。何事もPDCAは大切である。


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 ホテルに戻る途中、海に沈む夕日が素晴らしかったので、写真を取るために自転車を止める。今更ではあるが、四国は本当に景色が美しい。海と山が近いのでメリハリがはっきりしているのもあるのかもしれない。また、オレが四国入りした時にはまだそれほど山々が色づいていなかったが、徐々に紅葉が進んできている気がする。12月にお遍路を行うのは我ながらかなりリスキーだと思っていたが、景観のことを考えたら案外悪くなかったのかもしれない。


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 写真を取るために自転車を止めたすぐそばに東屋があったが、よく見るとそこには先客がいた。歩き遍路の人がそこを野宿の場所として選び、なんともう就寝していたのだ。野宿の場合、一番寝にくいのは早朝だ。日が沈んでから徐々に気温が下がり始め、最も気温が低いのは日が昇る直前だからだ。この人はそのことを熟知しており、比較的寝やすい時間帯のうちに場所を確保してしっかり休み、おそらくは日も上がらないうちに歩き出すのだろう。この覚悟この計画性はオレには無いものだ。彼(彼女かもしれないが)を見ていると、自分のお遍路に臨む姿勢の甘さを痛感した。そしてその甘さのしっぺ返しを、今じわりじわりと食らっているのだろう。この2日間で味わった苦労は、その一端に過ぎないのかもしれない。


 全然関係無いが、2連泊した高知市内のホテルは、安かろう悪かろうではないが、設備としてはイマイチだった。なぜか部屋の水道で、水を出すとお湯が出てくるのだ。逆はいくらでもあるが、このパターンは聞いたことが無い。部屋の注意書きを詳しく読むと、「蛇口の水からお湯が出てくることがあるので注意しろ」とあった。配管の都合で水が温まってしまうことがあるのだそうだ。珍しいこともあるものだ。逆に、ホテルにコインランドリーが備え付けられているのは使い勝手が良かった。洗剤も無料で使えた。このホテルは宿泊料が安いこともあるのだろう、朝食を食堂で食べていて気づいたが、工事関係者が多く泊まっていた。彼らの多くが単身赴任で、長期滞在しているように見えた。おそらく彼らも自分で洗濯をするのだろうし、ここのようにホテルにコインランドリーがあるのは便利なのだろう。年末に工事で単身赴任。日本の工事関係者は大変だ。

この日の走行距離

  • 151.1km(+徒歩:5.1km)

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之五:ロングライド、土佐へ

四国八十八か所参り

二十二番札所:平等寺

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 5時半起床。あまり寝られなかった割には眠気はない。辺りはまだ暗いが、7時には最初のお寺に着いていたいので、急いで野営を片付ける。一番面倒だったのがテントだった。組み立てるのは簡単だったが、たたむのはなかなか面倒。しかも、外側は夜露で、内側は結露でびっしょり濡れていた。タオルで拭き取るが、拭いた端からどんどん朝露で濡れていくのでたまらない。完全に拭き切ることはできなかったが、まぁいづれ乾かすことにして、まずは片付けを急ぐ。
 昨日の晩飯の残りの野菜スープを食べるも、やはり食欲がなく、しかし残すわけにもいかず、必死で食べる。油ものがなかったので、こちらの片付けは簡単だった。


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 片付けに手間取ったので、7時から15分ほど遅れて平等寺に到着。既にオレ以外にお遍路さんが何人か境内にいた。オレ以外はみな車で回っている様子だ。彼らがアホみたいに納経帳やら掛け軸やらを納経所に積み上げたので、オレはそれを待たされる羽目になる。車遍路の人は荷物の多さを気にしなくていいらしい。実に羨ましい。


二十三番札所:薬王寺


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 薬王寺に向う途中の標識に「美波」という町の名前を見つける。南ではなく美波。美しい字面だ。とっさに思い出したのは、またもやデレステの話で恐縮だが、「新田美波」のこと。確か父親海洋学者とあった。この辺りは海にも近いし、おそらくはこの町の名前からインスパイヤされてキャラクターを思いついたのだろう。などと考えていたが、後から調べたら新田美波広島県出身という設定だった。どうやら全く無関係らしい。


 くだらないことを考えているせいか、自転車の進むペースがちっとも上がらない。昨晩野宿したせいで疲れが取れなかったのだろうか? 理由を考えつつも必死で自転車を漕ぐ。平等寺から薬王寺までは20km強。途中に峠越えを挟んでいる。上り坂では昨日以上に自転車を重く感じる。結局、予定を1時間も遅れて薬王寺に着いた。


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 境内で20代前半とおぼしき若い男性から声をかけられる。自転車でお遍路をやっているんですか?頑張ってください。有難い声かけに元気にお礼を返す。明らかに空元気だった。

二十四番札所:最御崎寺

 次の最御崎寺室戸岬の先にある。距離にして78km。この旅最初のロングライドだ。このくらいの距離になると、峠を3〜4超えなくてはならない。5〜10km登りが続き、その後同じような距離をひたすら下る。この繰り返しだ。平地を走るわけでは無いから、かなりしんどい。気合いを入れていかねばなるまい。


 ところが、自転車のペースはどんどん遅くなっていく。自転車が重い。体が重い。最初はまた自転車トラブルかと思ったが、どうもそうではない。タイヤも問題無い。ギアにも異常は見られない。となると、オレ自身の体調に問題があるということだ。
 薬王寺を出て20kmほど走り、峠をひとつ下りきったところで、ついに一歩も動けなくなってしまった。とりあえず谷あいの集落にあるセブンイレブンに入り、食事と水を買い、駐車場で長めの休憩を取った。


 原因は水分不足だった。もしかしたら軽い脱水症状を起こしていたかもしれない。水分を1リットルほど経口摂取すると、体調はみるみるうちに劇的に向上した。どうやら昨晩野宿したせいで、普段以上に水分を補給できていなかったらしい。真冬ではあるが、坂を登ればシャツがびっしょりになるくらい汗もかく。空気も乾燥気味だ。しかし、喉が乾かなかったので自覚症状がなく、全く気づかなかった。


 以降、少しでもパフォーマンスが落ちたと思ったら即座に自販機を探し、スポーツドリンクを飲むことにした。そういうときは大抵は500mlをその場で一気に飲み干してしまう。しかし小便でトイレに行くことはほとんど無い。そのくらい自転車での旅では水分を消耗するということだ。
 自分の体調のことは、案外自分ではわからない。日常でも気をつけねば。


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 水分を十分に補給すると、また元のように走れるようになった。さすがに遅れは取り戻せないが、それでもひとつでも多く回りたい。峠をいくつか越えると、徳島県から高知県への県境に至った。ここからは坂本龍馬の生まれた土地:土佐だ。


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 天気が良いので見晴らしが素晴らしい。室戸岬に向かう国道55号をひたすら走ると、ずーっと海岸を眺めながら走ることになる。サイクリングが目的なら十分に楽しめる光景だろう。オレの目的はそうではないので、景色を楽しむのもそこそこに自転車を走らせる。


 最御崎寺室戸岬の先端……にある山の上にある。ここまで散々走らせておいて、さらに山の上だと!? アスファルトで整備されたヘアピンカーブだらけの急斜面を、ヒイヒイ言いながら自転車で上がっていく。


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 目的地は室戸岬灯台と並んで建てられていた。まぁ建てた順序から言うと灯台の方がはるかに後だろうが。先に室戸岬からの景色を堪能すると、続いて最御崎寺へのお詣りを果たす。実に予定から4時間遅れだった。

二十五番札所:津照寺

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 次の津照寺までは10kmと割と近い。先ほど上がってきた坂を一気に駆け下りて、そのままの勢いに向かう。30分ほどでたどり着くことができたが、この時点で時刻は16時を少し回っていた。この次の金剛頂寺までは5kmと近いが、かなり険しい山登りだというのは、ガイドブックで事前に頭に入れていた。おそらくこの時間からでは納経所の閉まる17時には間に合わない。今日はここまで。


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 ここで、致命的なミスをしていることに気がつく。この日の昼ごろ、休憩も兼ねて宿を予約していたのだが、宿の場所を盛大に勘違いしていた。金剛頂寺のその次、神峯寺の近くで取っていたと思っていたのだが、実際にはその先、高知市内に予約したホテルはあった。津照寺からの距離、実に80km。いっそキャンセルして野宿しようかとも思ったが、既に料金はクレジットカードで支払い済み、何より野宿から80km以上を走ったこの体で更に野宿をすることなど絶対に避けたかった。


 かくして、そこから更に80km、高知市までのロングライドが始まった。途中ライトの充電が切れたり、帰宅ラッシュの渋滞に巻き込まれたりと、いくつかのトラブルがあったが、思い出すのも辛いのでここでは省略する。予約したホテルにチェックインしたのは21時にさしかかろうという時刻だった。「疲労困憊」という言葉は、こういう時にこそ使うべきなのだろう。そんなくだらないことしかもう思いつかなかった。

この日の走行距離

  • 179.4km(+徒歩:4.1km)

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之四:ロープウェイ

四国八十八か所参り

第十三番札所:大日寺

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 6:20起床。うっかり寝過ごしてしまった。寝心地の良い布団と環境とは、圧倒的な正義だが、時に暴力である。
 神山温泉を出ると、最初は上り坂。神山温泉が谷間にあるからだ。あっという間に汗をかく。が、この道は昨日、焼山寺に向かう時に通った道。基本的に下り坂ばかりになる。上り坂でたっぷり汗をかかされた後、朝の寒空を猛スピードで自転車で坂を下るとどうなるか、おわかりいただけるだろうか。


 大日寺自体は細い道が大きくカーブするその脇にある。交通量が割合多いのにカーブにあるものだから、危なっかしくてしょうがない。ただまぁ、そもそもそのカーブができた理由が、おそらく「道を大日寺が避けたから」なのだろうが。

第十四番札所:常楽寺

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 寺の境内に剥き出しの岩がゴロゴロしている。おそらくこういう意図でデザインされているのだろう。お遍路さんの多くは老人なので、彼らには優しくないな、と個人的には思わなくもないが。


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 寺に着くとちょうど団体のツアー客が一斉に般若心経を読経していた。たとえ素人とはいえ、これだけの人数が一斉に読経しているのを聞くのは、なかなか壮観である。


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 たまたまなのか、昨日焼山寺で見かけた老人に、またここで出会うことになった。おそらくはオレと同じ順打ちなのだろう。老人の歩き遍路で自転車のオレに追いつけるわけがないから、おそらくは車で回っているのだと思われる。それにしても彼の詠唱は朗々としていて素晴らしい。

第十五番札所:國分寺

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 本堂が立て直し中で、仮本堂が設置されていた。仮本堂とはいえ、十分立派なものだと思うが。


 ここでも団体客に遭遇。納経所に行くと、案の定ツアーコンダクターとおぼしき人物が、大量の納経帳をカウンターに積んでいた。オレも自身の納経所を手にその様子を眺めていたら、受付の人が団体客のを差し置いてオレの納経帳に優先して御朱印を授けてくれた。どうやら団体客より個人客を優先させるというルールになっているらしい。でないと個人の人いつまで経っても次行けないもんなぁ。

十六番札所:観音寺

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 次第に天気が晴れて、暖かくなってきた。こんな日ばかりでないのは知っているのだが。
 徳島の道路は、歩道が広くて段差が少なく、とても走りやすい。のに人が徒歩で移動することが基本無い(車社会だ)から、自転車が走るには都合が良い。オレは東京では安全のため自転車では車道を走るようにしているが、徳島では自転車は歩道を走った方がみんな幸せになれる気がする。

第十七番札所:井戸寺

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 途中で見つけた徳島の電車。2両編成。オレは電車マニアじゃないけど、なんとなく親近感があって撮ってみた。たぶんオレの地元の電車と同じ車両編成だったからじゃないかな。


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 自転車のタイヤがいよいよ不安になって、たまたま通り掛かった自転車屋に飛び込む。その店はいかにも「街の自転車屋」といった風情で、腰の曲がった老人が一人でやっているボロボロの店だった。ダメで元々、のつもりで尋ねたが、やはりこの店にはクロスバイク用のタイヤは無いらしい。かわりに老人は、オレの自転車を見てくれそうな店を教えてくれた。老人の店から1kmと離れていないとのこと。多少遠回りだが、自分の自転車に不安を感じながら走る苦痛に比べればなんてことはない。
 そして実際にたどり着いたのが上の写真の店。本格的な自転車ショップで、店員さんがとても丁寧に応対してくれた。後輪タイヤの交換だけでなく、空気の入れ方(量・タイミング)の目安を教えてくれ、さらに前輪ブレーキ交換の必要性を指摘してくれた。せっかくなのでブレーキ交換も行ったが価格が東京:三軒茶屋で行った時の半額程度だったことに驚いた。(交換したブレーキ部品のグレードは一緒) こんな店が近所にあればなぁ、とつくづく思う。


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 タイヤを交換した後の走りは爽快で、井戸寺にはあっという間に着いてしまった。どうでもいいけど、井戸寺っていぼ痔と音の響きが似てるよね。

第十八番札所:恩大寺

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 井戸寺から意外と距離がある上、最後が割と急な上り坂。つらい。


十九番札所:立江寺

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 オレがこの旅で見かけた中で、たぶん最も若いお遍路さん発見!
 ……若い、というより、幼い、という方が正しいか。

二十番札所:鶴林寺

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 徳島2つ目の「遍路ころがし」と呼ばれる鶴林寺に向かう。恩大寺からやや遠くにあるのはまだいいが、最後の5kmが険しい急勾配なのだ。昨日の焼山寺みたいなものか。
 上の写真はそこへ向かう道の田園風景。一見穏やかで気持ち良い光景に見えるが、ものすごい向かい風が吹いていて、平地なのに全然進まなかった。


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 右に行くと鶴林寺、左に行くと太龍寺。急勾配が待っていると思うと、ここに自転車を置いていきたい衝動にかられる。結果的にはここに自転車を置いていかなくて本当に良かった。


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 急斜面を利用した柑橘系の果実の畑。そういえば柑橘系の果樹園を初めて見た気がする。オレは長野の農村の育ちなのだが。やっぱり育てるものは地域ごとに違いが出てくるのだなぁ。
 ……のんびり景色を眺めているようだが、空前絶後の急勾配を自転車で登っている最中だ。漕ぐこともできず時たま自転車を降りて押して歩くが、あまりの急斜面に10歩ほどしか続けて歩けない場所もあった。時折足を止めて息継ぎをしながら、必死で一歩ずつ歩く。


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 鶴林寺まで残り2.0kmほどまで登ると、太龍寺ロープウェイ乗り場への分かれ道にたどり着いた。さっきの分かれ道を最終的に通ることはなかったのだ。あそこに自転車を置いてこなくて、本当に良かった。


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 そこからしばらく登ると歩き遍路道に出会う。歩き遍路だと1.0km弱、車道を行くと2.0km。体力も気力もとっくに尽きている。散々迷った挙句、ここに自転車を置いて歩き遍路道へ。


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 とはいえ、歩きでも随分と急な斜面。決して楽では無い。


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 とても良い景色だが、写真を撮れているのは、余裕があるからではなく、あまりの登りのきつさに休憩を入れないと続けて登れなかったから。


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 20分ほど登り続けると、ようやく鶴林寺の山門にたどり着く。


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 なんとか鶴林寺にお詣りを果たす。
 ここの納経所で若いカップルが話しかけてきた。男性は白人系の外国人で無精髭を生やしている体躯の良い男、外国人の年齢は見た目ではなかなか分からないが、おそらく20代だろう。女性は日本人で、やはり20代半ばと思われる。話を聞くと、どうやら自転車を押して歩くオレを車で追い抜いて鶴林寺に来たらしい。そのオレの様子を見て随分と驚いたらしく、男性が「頑張ったあなたに」と焼き菓子をくれた。その様子を見ていた納経所の方からも大きな飴玉をいただく。お接待をいただくのはこれが初めてだ。
 しばしその場で談笑。オレが東京から来たことを伝えると、彼らはもっと驚いていた。オレに対する言葉や態度から察するに、どうも彼らはオレがかなり若いと勘違いしているらしい。確かにオレは、FC東京のトレーニングパーカーにチノパン、トレッキングシューズと、一見若い格好をしているかもしれない。実はアラフォーなのだと伝えてみようかとも思ったが、意味の無いことなので止めた。
 10分ほど話すと、太龍寺までの道を納経所の方に確認して彼らと別れた。「頑張ってね」「気をつけてね」なんでもない彼らの気遣いが、とても嬉しかった。

二十一番札所:太龍寺

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 先ほど息も絶え絶えに登ってきた歩き遍路道を、今度は一気に下っていく。登るときは階段より斜面の方が登りやすかったが、おりる時にはきちんと足を踏ん張って止まれる階段の方が下りやすかった。
 自転車までたどり着くと、今度は車道を自転車で下っていく。先ほどの分かれ道で太龍寺ロープウェイの方に曲がり後は、ひたすら下り坂。鶴林寺の納経所の方は「自転車だったら30分くらいでロープウェイ乗り場に行けるはず」と言っていたが、本当に30分間ひたすら下り坂だった。オレは鶴林寺までどれだけ登ってきたのだろうか。下りていくのは楽は楽だが、夕暮れ前ですでに気温はかなり寒い。


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 およそ30分で太龍寺ロープウェイ乗り場に到着。オレの他には熟年夫婦が1組いるのみ。我々が乗るのは上りの最終便だった。下りは17:20の臨時便と決められていて、それまでに戻ってきてほしいと係の人から言われた。


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 ロープウェイから見える景色。すっかり夕焼けの風情だが、係りの人の話だと、帰りの方がもっと景色は夕焼けが良いらしい。


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 大急ぎでお詣りと御朱印の記帳を済ませる。


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 ロープウェイ乗り場に戻る頃にはかなり暗くなっていた。悠長に写真を撮っていたら、早く乗ってくれと係りの人に急かされた。頂上駅の係員も、この臨時便で下界に帰るらしい。


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 帰りの便から見える景色は絶景だった。まさに日が暮れんとする際、逢魔時というやつだ。ロープウェイの乗車料金はそれなりに高価で、たかだか20分程度の滞在時間だとやや割高に感じてしまうが、この光景が見られるのであれば、悪く無い出費だったかもしれない。


 麓駅に着く頃にはすっかり日が暮れていた。気温も一気に下がり、震えるほどの寒さになる。12月であったことを今更のように思い出した。宿を取ろうと方々に電話をかけたが、残念ながらどこも満室。仕方なくこの晩は野宿することになった。この旅初の野宿である。
 次の平等寺の付近まで移動すると、適度に人目に触れない空き地を探した。1時間ほどでちょうどよく野球グラウンドほどの空き地を見つけたが、暗いこともあって何のための空き地かいまいち分からず。まぁ人も全く来ないようだし、都合が良い。急ぎテントを張って、携帯コンロで晩飯にコンビニで買った炒め用野菜の袋詰めを煮た、簡単なスープを作って食した。二度目の遍路ころがしに疲れたのか、あまり食欲がなく、半分残す。残りは明日の朝食へとなった。


 テントと寝袋で12月に野外で寝られるか? 当たり前だが答えはNoだ。ユニクロヒートテックを何枚も重ね着したが、それでも寒かった。また、風が吹くたびにテントが音を立て、それを「誰かが来たのではないか」「何かが来たのではないか」といちいち怯えることになった。深夜2時頃にあまりの強風でテントが大きな音を立てたときは、恐怖のあまりテントから飛び出したが、周囲には誰もいなかった。ホッと胸をなでおろし、落ち着いて周囲を見渡すと、天上には満天の星空が広がっていた。三脚を持っていればこの光景が写真に収められたのに。そう思いつつも、再びテントの中に戻る。以降、夜明け直前まで、浅い眠りと風音による覚醒を繰り返し続けた。

この日の走行距離

  • 94.3km(+歩き11.9km)