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どこにでもいるシステムエンジニアのなんでもない日記です。たぶん。

XP祭り2017 #xpjug :LT祭り発表内容「オペレーション戦略をご存知ですか?」公開資料

はじめに

takigawa401.hatenablog.com

 というわけでXP祭り2017:LT祭りで発表した内容はSlideShare等に上げるつもりは無かったんですが、後から「もう少し詳しく」という話をごく一部の方に頂きましたので、しゃべった内容を追記して書いてみます。





LT発表内容

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(via: https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00J486UXU/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&tag=teammfria-22&camp=247&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=B00J486UXU&linkId=40027280845b33984ace72541c9cf354 )

 それでは「オペレーション戦略をご存知ですか?」というタイトルで始めさせて頂きます。テックファームの滝川と言います。何度も出てきてスミマセン。もうちょっとだけお付き合い下さいね。
(※筆者注:この日は既に野良LT、ビブリオバトルと登壇しており、LT祭りで3回目の登壇でした。A会場にずっと居た人は「またコイツか!」と思ったでしょうね、笑)


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(via: https://www.google.co.jp/maps )

 みなさんご承知のとおり、今回のXP祭りはいつもと異なる場所でしたが、オレはちょっとだけ馴染みがありまして。オレは5年くらい前に早稲田大学の早稲田キャンバスに月2ペースで半年くらい通っていたことがありました。今回の会場変更を聞いて懐かしく思い、それじゃあその時の話でもしようかなと思いLTを準備してきたんですが……。


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(via: https://www.google.co.jp/maps )

 実は早稲田キャンバスじゃなくてビミョーに場所が違ったんですねぇ。いやぁ弱った。でもまぁ今更内容変更も出来ないので、このまま押し切ります。


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(via: http://school.nikkei.co.jp/special/mba2017w2/ )

 さて、なんで月2ペースで半年も通っていたかというと、早稲田大学と日経が「MBAエッセンシャルズ」という講座を開講していて、それを受講していたんですね。


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(via: https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00J486UXU/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&tag=teammfria-22&camp=247&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=B00J486UXU&linkId=40027280845b33984ace72541c9cf354 )

 「MBA」はご存知の方も多いと思いますが、ざっくり説明すると経営者のための知識体系で、ビジネスパーソンが身に着けていると喜ばしいとされるものです。この講座ではその「MBA」の要素、簡単なさわりだけを一科目あたり2時間程度の講座で教わって、なんとなくMBAの雰囲気を掴もうというものです。全部で8万ちょいするんで、一講座あたりだいたい5,000円くらいですかね。今はもうちょっと受講しやすくなっていて半分ずつを4万強で受講できるようになっているみたいです。興味があったら後で調べてみて下さい。あ、ちなみにオレは早稲田大学や日経から金貰ってるわけでも回し者でもありませんのであしからず。


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(via: http://mike-shimada.blog.so-net.ne.jp/archive/c2301663717-7 )

 この「MBAエッセンシャルズ」の中でオレが特に興味を持ったのは、遠藤功教授の「オペレーション戦略」という講座です。


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(via: https://ameblo.jp/iigokuu/entry-10909530981.html )

 では「オペレーション戦略」とはなんなのか? 「オペレーション」とは普段の業務・作業・運用のことを指します。ざっくり企業活動における「ボトムアップ」のことです。


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(via: https://flymee.jp/gallery/144/ )

 一方で「戦略」とは「経営方針」や「企業指針」の事を指します。こちらもざっくり「トップダウン」のことになります。


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(via: http://takigawa401.hatenablog.com/entry/20120920/1348730509 )

 MBAの「オペレーション戦略」はSCMなどマーケティングを仕事にしていない人にはあまり耳馴染みの無い内容も多いんですが、この遠藤教授の授業は「そんなものより今日本でオペレーションが強い会社からもっと学ぶべきだ!」とばかりに、主に事例を中心に紹介して頂きました。ここからはその事例を紹介していきます。


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(via: http://www.1101.com/yamato/ )

 まず一つ目ですが、宅急便の「クロネコヤマト」です。2011年に起きた東日本大震災のわずか2日後の写真なんですが、ガレキの中をヤマトのトラックが走っている様子です。これ、誰かにトラック走らせろ、と言われた訳じゃなく、現場のセンターの方たちが自分たちの判断で営業を震災後たった1日で再開させてるんですね。「荷物が来なかったらみんな困るだろう」って。何十kmも歩いて、時にはガレキもどかしながら。本社の経営陣もまさか営業再開しているなんて思いもよりません。

 で、その経営陣の方がこの写真を見てまず一番最初になんて言ったか。「おい、うちの車が盗まれたぞ。」


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(via: https://www.jibtv.com/programs/resilient/20130531.html )

 続いて、鉄道整備の「TESSEI(テッセイ)」という会社です。新幹線などの掃除を請け負う会社なんですが、ちなみに新幹線に乗ったことのある人は?(会場挙手) まぁほぼ全員乗ったことありますよね。じゃあ絶対このオバちゃんたちを見たことがあるはずです。このオバちゃんたち、あの十何両もある新幹線を、たった7分で完璧に掃除しちゃうんです。トイレ掃除もゴミ捨ても忘れ物の捜索も、全部含めてたった7分です。車両掃除の時間はそのまま電車の発車までの準備時間になります。どれだけ早く掃除できるかが、どれだけ多くの新幹線を走らせられるか、に直結するんです。新幹線が今これだけ頻繁に走っているのは、彼女たちのおかげなんです。


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(via: http://toyokeizai.net/articles/-/134844 )

 さらに、彼女たちは、新幹線がホームに入ってくるとき、出て行くとき、必ず一列に並んで一礼をします。こんなことをやれ、なんて彼女らは上から言われてないんですよ。全部オバちゃんたちが自分たちで考えて自分たちの判断でやってるんですね。


 これを視察で来日したフランスの国鉄総裁が、こんなことを言ったそうです。「あのオバちゃんたちを我が国に輸出してくれ!」人身売買だからダメです。


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(via: http://kiirowa.biz/teiban/teiban6/teiban6-00300.html )

 ヤマトにもTESSEIにも言えることですが、どちらも現場の判断で動いて、現場をより良くしていこうとカイゼンを続けています。なぜこんなことができるのか? それは経営陣が現場を信じて、現場に多大な権限委譲をしているからなんですね。ヤマトなんかも現場の権限が物凄く強くて、センター長くらいの立場だと現場に関わる判断は殆ど上にいちいちお伺いを立てずにできるそうです。


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(via: http://www.yamato-hd.co.jp/investors/kojin/yamato/02.html )

 ではなぜそんなに権限委譲ができるのか? それは戦略=方針がハッキリと明示されており、しっかり現場の人ひとりひとりに浸透しているからなんです。ヤマトの「ヤマトは我なり」から始まる社訓はとても有名で、会社のことを我がコトとして捉えています。その理念を体感するための仕組みとして「いかに自分たちの提供するサービスが世の中の役に立っているか」「ヤマトのサービスが世の中に必要とされているか」を説明した映像を新入社員に見せるのだそうです。


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(via: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A%E8%A8%98%E5%BF%B5%E6%97%A5 )

 この辺は自衛隊もおなじだそうです。自衛隊に入隊すると、体力を鍛えることよりも、重機の扱いを覚えることよりも、まず「自分たちの国が如何に素晴らしくて如何に尊く、自分たちが命を賭して守る価値があるか」を教えられるのだそうです。それが無かったら鍛えた身体も重機も意味をなさないし、逆にそれがあるからこそ、甚大な災害が起こるたびに身体を張って災害救助にあたってくれるのですね。


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(via: https://twitter.com/beerbearbeat/status/783283236612866048 )

 遠藤教授は「トップダウン=求心力」「ボトムアップ=遠心力」とおっしゃっていました。どちらが欠けても企業としていびつになるし、体をなさなくなる。ただ、どちらがより重要かといえば、「ボトムアップ」だとおっしゃっていました。客に見えない部分(=経営陣)がポンコツでもある程度まではどうとでもなるけど、客に接するオペレーションの部分がポンコツだと仕事はうまく回らなくなってしまう。


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(via: http://www.suginamigaku.org/2015/01/val-laboratory.html )

 この会場(XP祭り)に居る人たちに最も身近な例は、「駅すぱあと」のヴァル研究所さんじゃないかなと思います。


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(via: http://gaiax.hatenablog.com/entry/2016/08/09/155403 )

 5年くらいまではよくある老舗の会社……悪く言えば現場の勢いが落ちて停滞しぎみだった会社だったのが、今やカイゼンを続け会社の至るところにカンバンがある元気のある会社に変貌しています。この写真はたぶん総務の方が自分たちのカンバンを紹介されている様子だと思いますが、総務でカンバンやってるところなんてありますか? どんな進んだ会社でも業務部門でこんなことやっている会社、そうはないですよ。


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(via: https://twitter.com/araratakeshi )

 で、その立役者であるヴァル研究所の新井さんに以前話を聞いてみました。元々レガシーだった会社に耐えかねて、ある日取締役会に直談判に乗り込んだとのこと。それを見た当時の経営陣が「そんじゃあちょっくらやってみろ」ということになり、それまで平社員だったのがいきなり役職を与えられてしまったそうな。後は地道なボトムアップを繰り返していたら、だんだん周りの人が手伝ってくれるようになり、いつの日にか会社見学ツアーで数ヶ月待ちの順番待ちが生じてしまうような有名な「カンバン・カイゼンの会社」になってしまったそうです。
 新井さんは聞くたびに「僕は何もしてない」と繰り返しおっしゃられていますが、まず直談判して経営陣に承認させたことが重要なんです。承認を得た・自分が地位を得たことでそれを戦略として明示させた。承認した以上、上の人も放置するわけには行かないので、結果的にウォッチし続けることになる。そしてその中でボトムアップによるカイゼンを繰り返し続けた。それによってたった5年でヴァル研究所を他に類を見ない「現場が元気な会社」を作り上げたんです。おそらく新井さんは意識しなかったでしょうが、まさに遠藤教授のおっしゃるオペレーション戦略に則り、ボトムアップトップダウンの両方の力学を作用させた結果と言えます。


 ちなみにヴァル研究所さんからもお金は頂いてませんし回し者でもありませんが、これからお声がけ頂く分にはぜひご相談させていただきます。


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(via: https://www.instagram.com/p/BKbKHvtALp-/ )

 そのほか、遠藤教授はことさら「飲みに行く」ことを強調されていました。現場で飲みに行く、愚痴を言い合う、腹を割って話す、そうやって現場で一致団結し覚悟が決まっていくのだそうです。酒は元気な現場の礎です。なので我々もこの後ガッツリ飲みに行きましょう!
(※筆者注:LT祭りの後はクロージングを経て懇親会でした)


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(via: https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00J486UXU/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&tag=teammfria-22&camp=247&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=B00J486UXU&linkId=40027280845b33984ace72541c9cf354 )

 以上、MBAのオペレーション戦略のご紹介でした。現場を元気にしたい、カイゼンしたい、という方は参考になさってみて下さい。


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 ちなみに、遠藤教授は昨年(2016年)に退官し、「MBAエッセンシャルズ」の講師も辞められてしまったそうです。それじゃあ何してるのかなぁ、と思ってついさっき調べてみたら……。


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(via: https://www.amazon.co.jp/gp/product/B01M9K3R9H/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&tag=teammfria-22&camp=247&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=B01M9K3R9H&linkId=adbfd052b33d5aaa745578973b6cb613 )

 なんか身も蓋も無いタイトルの本を書いていました。いやぁ弱っちゃいましたね。それではご清聴有難うございました。




おわりに

 公開にあたりだいぶ内容を足したので、このまま読んでもLTの枠5分は超えてしまうことはご承知置き下さい。


 今回のLTには、とある2つの狙いがあって「画像のみ」のスライドを作成しました。


 1つ目は、スライド作成コスト削減のため。
 LTとはいえプレゼンスライドを作るのはなかなか大変なので、ちょっとでも楽しようとした次第です。「画像探すのも結構大変じゃない?」とも聞かれたんですが、難しいのは「画像と文章の組み合わせ」で考えることあって、画像だけだと文章側をいくらでも柔軟に変更できるので、多少それっぽければ割となんとでもなります。


 2つ目は、撮影対策。
 最近IT系の勉強会やセミナーでは、他人のシャッター音がうるさくて講義に集中できない、という意見がチラホラ見られます。オレ自身は全くそういうのを気にしないんですが、せっかくなので「撮影しても意味の無いスライドにすれば撮影されない=シャッター音が響かないのでは?」という提言も兼ねていました。スライドの作り方次第で、シャッター音の抑制はある程度できるんじゃないか、と仮説を立ててみました。問題を聴講者にばかり押し付けるのではなく、登壇者が我がコトとしてもっと捉えてもいいんじゃないかな、とオレは考えています。


 今回、前者に関しては、スライド作成時間が1時間程度なんで、使い回しとかしてない割には、まぁ上手く行ったかなぁと思います。後者は、まぁそもそもLT祭りで全スライドを撮影する人は皆無なので、効果のほどを測定することはできませんでした。1時間くらいのセッションが持つ機会があったら、また試してみたいですね。




 以下は今回発表のネタをお借りした遠藤功教授の著書です。オレもまだ全部読めてないので、早めに読むようにします。