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ミッションたぶんPossible

どこにでもいるシステムエンジニアのなんでもない日記です。たぶん。

UXデザイナーの職責、プロジェクトチームの職責、その他諸々について

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はじめに

 我々が登壇したXP祭りが開催されたのが9/24(土)、そのあとブログエントリを書いて、しばらく仕事・プライベート共に忙しかったこともあって「巷にはびこる間違ったUX論へのヘイトをぶつける集い」に関する世間の反応を追い切れていませんでした。大変申し訳ない。オレの観測範囲で目に付いたものを以下に全て列挙させて頂きます。


 そうは言っても、合間合間に目に付いた記事やツイートは読むようにしていましたので、今更ながら簡単にでもオレなりの意見・見解を以下に書いておきます。


我々は「UX論」などというものに唱えたことは一度もない

 それはさておき、先に誤解に対して言及したいと思います。


 我々は先月「巷にはびこる間違ったUX論へのヘイトをぶつける集い」というタイトルでセッションを持ちましたが、それに対するリアクションとして「UX論」が云々、というキーワードが非常に目に付きました。これには非常に違和感があります。
 まず、我々としては元々アカデミックに端を発した「ユーザーエクスペリエンス(UX)」という言葉の定義、「UXデザイン」という手法……などなど、言わば原典のようなベースとなる知識というか考え方が元々あり、それらに対して門前町の信心深い老婆のように自らの意見を持たずただそれらに沿う、いわば原理主義者的な立場を取りました。
 一方で「UX」「UXデザイン」という言葉をよく調べたりせずに好き勝手なイメージから「UX・UXデザインとは」を歪めて発言したものと感じられる文献がWebを中心に散見され、それらを総じて「巷に蔓延る間違ったUX論」と揶揄したのが、セッションタイトルの起源です。


 我々自身は特に「UX論」というものは持ち合わせていませんし、他の登壇社2人はともかく、ましてやオレはUX・UXデザインはド素人に毛が生えた程度なので、それらに対して論ずることなどできるはずもなく。今回、イベントの主旨として、UX・UXデザインのベースとなる知識の理解が乏しい状態で論じたと思われる「巷に蔓延る間違ったUX論」を訂正して回ることで、逆にUX・UXデザインのベースとなる知識を確認して行こう、という立てつけでセッションを持ちました。
※前述のセッションの発表者他2人に伺ったところ、実際のところUXデザインに関する「これが原典だ!」というような書物や論文・宣言のようなものは今のところ特に無いんだそうです。「アジャイル開発」における「アジャイルマニフェスト」みたいなものがUXデザインにもあれば、話が早いんですけどねぇ。


 なので、もし後にこのセッションに対して言及して頂くなら、「UX論」ではなく「間違ったUX論」として頂きたいなと思う次第です。原理主義者気取りとしては以上です。


UXデザイナーフルスタック化問題とUXデザイナーの職責範囲

 このテーマはセッションでは扱ったのですが、先日のブログエントリでは殆ど触れていなかったので、ブログエントリだけ読んで頂いた方には説明不足になってしまいました。申し訳ありません。

もちろん法的要件の適格性を最終的に確認するのは専門家の役割であるとは思うのだけれども、「UXデザイナーはUXデザインに注力すべきでしょう」という点には同意しかねるのである。職業プロフェッショナルを名乗るのであれば、当然のように法的要件および政治的・文化的要件に配慮すべきである。UXデザイナーに限った話ではなく。


 上記は@agnozingdaysさんのブログエントリから。記事中にあるように、オレと@agnozingdaysさんは知人ですが、だからといって彼が言及するように手加減などしてくれるはずもなく(むしろ手加減無用な関係なので嬉々としてマサカリを振るってくれるはず)。
 頂いている意見については概ね同意で、姿勢として職責を超えてプロジェクト目的を完遂するために動くのは、UXデザイナーに限らずプロジェクトチーム全員に求められるべきことだと思っています。オレはUXデザイナーではなくシステムエンジニアですが、自分がその立場にあればそう動こうと努力するでしょう。


 ……が、それはそれとして、努力しようとしてもできないのが、現在UXデザイナーと呼ばれる人たちの置かれている現状のようです。



 上のツイートの図は、UXデザイナーと呼ばれる人が求められるスキルを列挙したものです。ツイート自体には「UXにはチームで対応するべきだよね」というような主旨もコメントで添えられています。



 上のスライドはUXデザイナーとして活躍されている@azumi0812さんのスライド。現場で実際に働くUXデザイナーが如何に多くのタスクを抱えているかが伺えます。

重要なスキルの幅が広いということは、製品チームに1人のデザイナーしか配属しないという行為は愚かだということだ。1人で全てのスキルを運用できるデザイナーなど存在しない。そもそも、デザイナーは1人で働くべきではないのだ。足りないスキルが補完されるチームの中でこそ、デザイナーは最高の仕事をし、自分のスキルを最大限に活かすことができる。そうすることで、チーム全体で個々の能力の総和以上の成果を得ることができるのだ。


 デザイナーに求められるスキルは非常に多く、それぞれを極めることは非常に困難だ、ゆえにデザイナーはチームで仕事に臨むべきだ、というような内容が書かれています。


 いくつか例を挙げましたが、総じて言えることは、UXデザイナーと呼ばれる職責には多くの役割・スキルが求められ、それは本来であればチームで対応すべきだ、ということです。しかし、日本のITサービス開発現場は少なくともそうはなっておらず、UXデザイナーと呼ばれる役割の人が1人いれば大した方で、その人にUXデザインに関わるタスクが全てのしかかってくる、というのが現状のようです。


 また、転職サイトで「UXデザイナー」で検索すると、殆どの募集要項の必須or推奨スキルに「Photoshop」「Illustrator」と記載されていることが分かります。Webサービスなどの場合、UI改善=UX改善となってしまうケースが往々にしてあるため(「UX≠すごいUI」だという話はXP祭りのセッションで取り扱いました)、スキルとして求められてしまうのは理解できなくはないですが、「体験の再現性を仮説・検証・実装する」というUXデザイナーの本質を考えると「Photoshop」「Illustrator」は本当は必須ではありません。が、募集要項にある以上、「Photoshop」「Illustrator」を使える人がUXデザイナーとして配属されて、「フォトショやイラレが使えるんならアレもやっといて」とこれまた本質でない作業を依頼されることは容易に想像できます。本来のUXデザイナーとしての役割を果たしながら、なおかつアイコン描いたりフォトレタッチしたりバナー画像作ったり、といった作業に追われることになり、結果高稼働になる、というケースが、UXデザインに関わる人には実際多く起こっているようです。



 プロジェクト開発はそもそもチームで行うものであり、誰かにタスクが集中すればそれを補う動きをするのがプロジェクトメンバーとして当然です。また、特定のスキルを持つその人しかできない役割があれば、パフォーマンスを最大化できるよう役割を分担するのが正常なプロジェクト開発です。
 前述のように、法律や商習慣の確認などを、その役割に関わらず、プロジェクトメンバー全員が意識して行動できることが望ましいですし、そうあれるよう努力する姿勢は必要だと思います。ですが、特定の人にタスクが集中する状況があるのに、その人に「もっとやれ」と要求するのは愚かしい行為ですし、努力してできることであれば他の人でも同じ様な努力で成し得るはずで、ユニークなスキルを持つメンバーのリソースを食いつぶさずとも、別の人が補完すべきではないかと思います。


 前回ブログエントリに不足したと思われる点を補完してみましたが、もし気になる点があればご指摘頂ければと思います。


ユーザーにデメリットを与えかねないサービス・機能をどう防ぐか

 前回ブログエントリからの繰り返しになりますが、ソーシャルゲームのガチャはUXデザインの範疇ではない、というのがオレの意見です。ソーシャルゲームのガチャには、提供者から見て2つの役割があると思っています。

  1. 収益源
    • ユーザーから直接お金を払ってもらう手段
  2. ゲームバランス調整
    • 強いカード、弱いカードをどの程度出すか → ゲームの難易度調整


 1 はビジネスモデルの範疇ですし、2 はゲームデザインの範疇です。UXデザインはこれらを前提・制約とし、その上でユーザーの体験をある程度コントロールすることを目指すことになるでしょう。
(※UXデザインがゲーム業界にどの程度導入されているのかは不明ですが、仮に恒常的に導入されているとして)
そうなると、出来ることにはある程度限られており、そもそものビジネスモデルやゲームデザインの見直しから必要になるはずです。実際、同じゲームでも「艦隊これくしょん―艦これ―」や「ポケモンGO」など、ガチャに頼らないビジネスモデル・ゲームデザインを採用しているものは出始めています。
(※一方でポケモンGOのように別の問題を発生させているケースもありますが、本題から逸れるので、ここでの言及は避けます。)
(※あと、インベーダーゲームドラクエ3のように社会問題や事件に発展したケースも言及しません。面白過ぎるからこそ起こる問題って、だれが責任取るとかあるんですかね?)



 では、ソーシャルゲームのガチャに限らず、ユーザーに不利益・危害をもたらす要素が自分のプロジェクトチームが提供する製品・サービスに含まれていたとして、UXデザイナーはどう動くべきでしょうか? ……こんなの、UXデザイナーとか関係ないですよね、プログラマだろうがリーダーだろうが、プロジェクトメンバーである以上、プロジェクトリスクはプロジェクト全体で列挙して解決すべきです。


 オレは製品・サービスを提供する立場に立った際、追求すべき優先順位は以下のようになると考えています。(@fladdictさんとTwitter上で会話させて頂いた際のご意見を多分に参考にさせて頂きました。)

  1. 収益性
  2. ユーザー利便性(ユーザーに不利益・危害をもたらす要素の有無、という観点も含む)

 その製品・サービスが儲かっていない場合、ユーザー利便性を改善するための工数(=費用)をねん出することは難しくなります。敢えて身銭を切って改善することは、ある程度は可能でしょうが、改善を継続し続けることは不可能です。美談だけじゃ飯は食えない。腹ペコの人間が他人に優しくできるわけがない。道理はどうあれ、まずは稼ぐことが先です。


 では、ユーザー利便性はないがしろにして良いのか、ましてユーザーに不利益・危害をもたらす要素を放置しておいていいのか、というと、当然NOです。なぜならば、これらを放置し続けた結果として外圧によって製品・サービスを維持できなくなり、縮小・終了せざるを得ない事態に追い込まれる危険があるからです。ユーザーにそっぽ向かれるくらいならまだしも、強烈なバッシングを受けることも考えられますし、SNSでいわゆる炎上を起こすこともありえます。最悪、監督官庁による勧告・命令を受けることもあるでしょう。そう言った事態にまで発展した場合、そのビジネスをそれまで同様に継続するのは限りなく困難です。
 そのような事態になれば、最優先で考えていた収益性も担保できません。プロジェクトメンバーは、自分たちが明日の飯を食うためにも、自分たちの製品・サービスを注視監視し、改善していく必要があると、オレは考えます。




銀の弾丸など無い

 元々、「UXでソーシャルゲームのガチャにおける被害者を減らす・無くすことはできるか」というのが我々に対する問いかけでした。


 ソーシャルゲームのガチャは、パチンコ・パチスロのように強烈な中毒性をはらみます。業界でガイドラインは設けているものの、あまり機能していないという話も聞きますし、また、既に収益確保の手法として確立され広く活用されている以上、個別のサービス提供者が個別に自主規制して行くのはなかなか難しいんじゃないかと考えています。おそらくは法規制で一斉に禁止する以外に完全に被害者を無くすことはできないのではないかというのがオレ個人の考えですし、個人やサービス提供会社の枠を超えて、業界・社会・国として取り組む以外に解決は図れない懸案だと思います。それは、何十年も前からパチンコ・パチスロが問題視され続け、しかし未だに解決の道を歩んでないことからも明らかです。


 そんな難題に対し、所詮カードの一枚に過ぎない「UXデザイン」にそこまでの問題解決を押しつけるのは酷というもので、もっと広い視座で多くの人を巻き込んで解決を目指すべきです。みんなで解決を目指す中の一要因として「UXデザイン」の活用を検討するのは、まぁやってもいいんじゃないかなと思いますけどね。ただ、仮に検討してみて、この問題に対するカードとして適切でないと判断できたとしても「このカードは駄目だ、使えない」などと断ずるのは、あまりに幼く、愚かな行為とオレは考えます。


 IT業界で良く用いられる言葉に「銀の弾丸など無い」という有名な言葉があります。通常の手法ではダメージを与えられない化け物でも、銀の弾丸を用いれば一撃で致命傷を与えることができる、という西洋信仰になぞらえた論文が語源ですが、全ての問題を一発で解決できるようなモノは、ソフトウェア開発には無い、といっているわけです。それはUXデザインに限った話ではありません。クラウドしかり、IoTしかり、アジャイル開発しかり。どれも開発チームが取るべきカードの1枚に過ぎません。合わせ技で解決できることもあるし、全部採用検討しても解決できないこともある。人の世とは複雑で難解で、理不尽なものです。


 オレの勝手な意見ですが、UXデザインは事業開発に適した手法なんじゃないかと思っています。ECサイトのコンバージョン改善なども、ビジネスモデルにおけるものすごく小さなピボット(ビジネス方針転換)と言えなくもないですし。その範囲であればUXデザインというプロセスは有効に機能するでしょう。
(※フジタさん、イトウさんに聞いたところ、他の使い方もできるようですが、オレの理解が浅くまだピンと来ていないのでここで紹介することはできません。)


 ですが、その活用範囲を超えた時には、その意味があまり望めないことも十分考えられます。道具というのは目的に対して最適化されるべきものです。ドリルで釘は打てないし、金槌で穴は開けられない、やってやれなくはないけど、費用対効果が見込めるかどうかは定かではないです。UXデザインに限らず、あらゆる要素がそういうものだとオレは思いますし、それらを適切に選び、使いこなせる技量を身につけることこそが、製品・サービス開発に携わる我々の役割であると考えます。


おわりに

 そういえば、前回ブログエントリで「勉強しろ!」と唱えたら、「この老害が!」という言葉を頂戴いたしました。UXとUXデザインに関わってわずか数カ月で老害と呼んで頂けるなど、光栄の極みですね。


 まぁ冗談はさておき、UXデザインに限らず、新しい手法・プロセス・技術は今後もいくらでも出てきます。それらに対して正しい知識を身に付け、使いこなせるように手になじませることに対しては、ITエンジニアとして不断の努力を続けるのは当然で当たり前の姿勢だとオレは思います。努力し続けることを止めたら、遅かれ早かれ、いつか立ち位置を失うことになるでしょうから。今回オレにとってUXとUXデザインについては、たまたま機会を設けることができただけで、今後扱うテーマはその都度変わっていくでしょう。ですが、テーマがなんであろうと、学ぶ姿勢と努力は継続していきたいと思っています。


 あと、全然関係ないですが、今回の一連のやりとりを眺めていると、どうも今回起こったUXやUXデザインに関する議論は、数年前にアジャイル界隈で起こった議論に似通ってるんじゃないか、と思えました。イマイチつかみどころがないところも、誤解されたり間違って捉えられたりするところも。もしかしたら、過去アジャイル界隈に起こった流れは、もしかしたら今後UX界隈でも参考にできるかもしれませんね。よう知らんけど。