ミッションたぶんPossible

どこにでもいるシステムエンジニアのなんでもない日記です。たぶん。

会社を辞めたので自転車で四国八十八ヶ所参りをやってみた。其之六:負債の返済

二十六番札所:金剛頂寺

 6時起床、8時半出発。この日は昨晩走り続けた道を引き返してお遍路を打たねばならない。その距離:75km。そのため、昨晩泊まったホテルは、チェックイン時点で既に2連泊に変更しておいた。この日は荷物を置いたまま遍路を打つことができる。山登りが2連続と分かっているだけに、荷物が置いていける=軽い自転車で山登りができる、というのは大きなアドバンテージだ。


 そういえばここまで言及していなかったが、お遍路というものは「回る」「詣る」ではなく、「打つ」というらしい。「打つ」と言えば、オタ芸も「踊る」ではなく「打つ」ものなのだそうだ。ひょっとしたらオタ芸の「打つ」もお遍路からインスパイアされているのかもしれない。神たるアイドルに捧げるオタ芸。弘法大師に導かれ、修行と御仏への祈りを捧げるお遍路。どことなく共通点があるではないか。……無いな。自分で言っといてなんだが、一緒くたにしちゃダメだわ。


 金剛頂寺に向かう途中、老婆を助ける。
 水分補給のための休憩を終え、走り出そうとすると、道の反対側で老婆が転倒し、車道に転げ落ちそうになるのが見えた。どうやら手押車を支えに歩いていたようだが、歩道のわずかな坂に手押車が加速し、ついていけずに手押車に引きずられるように転んでしまったようだ。たまたま車の通行が途切れたこともあり、即座に車道を渡った自転車を降り、老婆と手押車を車道から歩道に引き上げる。老婆は気が動転してるのか、足がもつれたままで手押車の取っ手に手を伸ばし、立ち上がろうとしていた。当たり前だがそんな状態で立ち上がれるわけがない。
 オレが老婆を落ち着かせようと苦心していると、その様子をたまたま見ていたご婦人が車から降りてきて手助けをしてくれた。手押車に備え着いた椅子を起こし、座って落ち着くようになだめる。オレは十年位以上前に自身がライフガードだった時に覚えた救助法の要領で、後ろから老婆を抱え、持ち上げて椅子に座らせた。老婆は見た目以上に重かった。かつてライフガードの時にも体験したが、要救助者に意識があるか無いかで、その人の重さは全然違ってくる。見た目以上に重く感じたというのは、おそらく老婆がパニック状態で、こちらの動作に対して能動的でないからだろう。
 結局、この老婆の旦那さんに迎えに来てもらうことで事態は収束した。ご婦人が老婆から名前と電話番号を聞き出し、オレが老婆の自宅に電話をかける。すると5分ほどで旦那さんが車で迎えにきてくれた。老婆は転んだ際にひざを擦りむき出血していたが、他にぶつけたところはなく、歩くのにも支障はなさそうだった。(怪我など無くても元々歩くのがおぼつかなくはあったが) 老婆が乗った車を見送ると、オレは手伝ってもらったご婦人にお礼を言い、再び昨晩走った道をひた走る。先ほどより軽快に走れているのは、一連のトラブルがちょうど良いタイミングの休憩になったから、だけでは無いと思う。


 金剛頂寺に着いたのは12時過ぎだった。若干のトラブルがあっても4時間程度で75km走れたのであれば、タイムとしては悪く無い。


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二十七番札所:神峯寺

 今走ってきた道を30km戻り、さらにそこから3kmほどの山道。辛い。が、荷物が無い分、まだマシなのだろう。それでも辛い。


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 到着したのは16時前だった。やっぱり山登りは想定より時間を取られる。可能であれば次の大日寺も打ちたかったが、あと1時間で40kmを走るのは無理だ。どうやらこの日はここまでだ。


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 昨日の予定では、本当はこの神峯寺まで打つつもりでいた。実際に走ってみて、それがいかに無謀な計画だったかがわかる。


 オレは都内を自転車で走る時、だいたい25km/hで計算している。自宅から会社までが25km、それを1時間で走ることができるからだ。今回は荷物もあったので20km/hで計算し、計画を立てていた。が、実際に20km/hで計算すると、最後の1つ2つのお寺を打てずにその日を終える傾向がここまであった。どうやら20km/hは現実的なベロシティとは言えないらしい。以降、15km/hに修正し、計画を立てていったが、山登りや峠越えなどで若干の狂いはあったものの、その後概ね計画通りに進めるようになる。何事もPDCAは大切である。


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 ホテルに戻る途中、海に沈む夕日が素晴らしかったので、写真を取るために自転車を止める。今更ではあるが、四国は本当に景色が美しい。海と山が近いのでメリハリがはっきりしているのもあるのかもしれない。また、オレが四国入りした時にはまだそれほど山々が色づいていなかったが、徐々に紅葉が進んできている気がする。12月にお遍路を行うのは我ながらかなりリスキーだと思っていたが、景観のことを考えたら案外悪くなかったのかもしれない。


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 写真を取るために自転車を止めたすぐそばに東屋があったが、よく見るとそこには先客がいた。歩き遍路の人がそこを野宿の場所として選び、なんともう就寝していたのだ。野宿の場合、一番寝にくいのは早朝だ。日が沈んでから徐々に気温が下がり始め、最も気温が低いのは日が昇る直前だからだ。この人はそのことを熟知しており、比較的寝やすい時間帯のうちに場所を確保してしっかり休み、おそらくは日も上がらないうちに歩き出すのだろう。この覚悟この計画性はオレには無いものだ。彼(彼女かもしれないが)を見ていると、自分のお遍路に臨む姿勢の甘さを痛感した。そしてその甘さのしっぺ返しを、今じわりじわりと食らっているのだろう。この2日間で味わった苦労は、その一端に過ぎないのかもしれない。


 全然関係無いが、2連泊した高知市内のホテルは、安かろう悪かろうではないが、設備としてはイマイチだった。なぜか部屋の水道で、水を出すとお湯が出てくるのだ。逆はいくらでもあるが、このパターンは聞いたことが無い。部屋の注意書きを詳しく読むと、「蛇口の水からお湯が出てくることがあるので注意しろ」とあった。配管の都合で水が温まってしまうことがあるのだそうだ。珍しいこともあるものだ。逆に、ホテルにコインランドリーが備え付けられているのは使い勝手が良かった。洗剤も無料で使えた。このホテルは宿泊料が安いこともあるのだろう、朝食を食堂で食べていて気づいたが、工事関係者が多く泊まっていた。彼らの多くが単身赴任で、長期滞在しているように見えた。おそらく彼らも自分で洗濯をするのだろうし、ここのようにホテルにコインランドリーがあるのは便利なのだろう。年末に工事で単身赴任。日本の工事関係者は大変だ。

この日の走行距離

  • 151.1km(+徒歩:5.1km)