ミッションたぶんPossible

どこにでもいるシステムエンジニアのなんでもない日記です。たぶん。

「知らないことが財産」だと気付かせてくれた彼女の素人目線なドキュメントレビュー



 10月の半ばのこと、客先に向かう電車の中で、10月初旬に開催されたCEATEC JAPAN 2012の話になりました。メンバーは、オレと50手前の関西弁の気の良いおっちゃんな管理者、そしてオレと同世代の女性の3名でした。今回オレらの開発したWebサービスを利用したAndroidアプリのコンセプトがCEATEC JAPAN2012で展示され、オレら3人はそれぞれに暇を見つけて様子を見に行っていました。その時に、自分たちの開発したもの以外でなにか面白いものは無かったか?という話になったのです。


 オレはKDDIと日産の展示が気合入ってた、富士通の展示内容が意表をつかれて面白かった、それ以外はオレの想像を超えるようなものはあんまりなくて、正直CEATEC全体としてはイマイチだった、あと牛タン串ってのがフードコートにあって塩辛かった、みたいな事を伝えたと思います。


 それを聞いて女性は、確かこんな事を言ったと記憶しています。


 「はー、やっぱ見る人が見るとちゃんと気付くものがあるんですね。私は自分たちの関わったところは嬉しくって散々写真撮ったりとかしましたけど、後は何を見ても『わーすごいなー、何が凄いのか良く分からないけどすごいなー、でもどの辺が凄いんだろ?』って思った程度でなんにも得ずに帰ってきちゃいました。私ももっと勉強しないと駄目だなぁ。






 今は大手SIerWebサービス開発案件に参画しています。開発もしているんですが、一番大きな比重を占めるのは、既存Webサービスのマニュアル作り。今回のシステムを構築するベースとなっている商用製品には元々Webサービスがいくつか予め用意されていて、それらを公開してスマートフォンアプリを作ろうという狙いからなんですが、まーーー、バグだらけで使えない使えない。使える機能と使えない機能をどう分かりやすく伝えるかが、このマニュアル作りの一番大事なところだったりします。


 で、このマニュアル作り、オレともう1名で基本的に書いているんですが、実はこの作業で一番頼りにしているのは、そのもう1名でも当然オレ自身でもなく、レビューに参加してくれる、前述の女性です。この女性、開発現場と営業の橋渡しやお客さんとの交渉を主にしている方で、ほぼ営業職。お客さんにレビューに伺う直前に、その大手SIerとして恥ずかしくないレベルかどうかをチェックする、いわば責任者の立場にいます。彼女自身はプログラミング経験も設計書を書いた経験も無い、ズブの素人です。


 だから、なのか、だけど、なのかは受け取り方次第ですが、この女性はレビュー中でも臆することなく積極的に指摘を上げてくれます。それが割と「そもそもこれってなに?」という基本的で根本的な内容が多いんですね。


この用語ってどういう意味ですか?
この単語っていきなり出てきますけど、意味が良くわかんなくて…。
ここの仕様って、もう少し分かりやすく説明してもらえませんか?
etc...


 オレらSEはシステムに詳しかったり仕様を知ってたり、まぁ知らなかったとしても長年の経験から見当がついたりして、割と「ユーザーが疑問に思いそうなこと」を見落としてしまうんですよ。それは「ユーザーが分かりやすいように」と常に意識し続けていても、です。


 その点、彼女はSI部門に席を置けど、IT的には完全に素人。わかんないけど責任のある立場だから何とかして品質を上げてからお客さんのところに持ってかなくちゃいけない。だから彼女なりに多少無理してでも、自分が恥をかいてでも、色々意見を上げてくれます。


 その指摘・質問が凄く助かるんですね。彼女は言い換えれば「ユーザーに最も近いSI部門にたまたまいるOL」です。しかもお客さんに見せる前に、いくら指摘されても問題無い場所でユーザー視点の意見をくれる。彼女のおかげでユーザー目線をしっかり取り入れた上でお客さんのところにドキュメントを持っていける。モチロンお客さんからの指摘は当然あるんですけど、彼女の視点があるのと無いのとではクオリティが段違いなのは、顧客レビューの際のお客さんの反応を見ていれば明らかです。




 冒頭の話に戻ります。彼女は「CEATECで興味深いものが見つからなかったのは自分が不勉強なせいだ。」と感じたようです。自分が駄目だと思ってしまったようですが、そんなこと全然無いんですよ、むしろ彼女の言った台詞には凄く重要で、的を射た意見なんです。

 CEATECは、一般の人にも開放しているけれど、どちらかというと企業向けのイベントで、まだ未完成のコンセプトや部材・パーツのような配線剥き出しのものも多く展示されています。言い換えれば「一般ユーザーにプレゼンスするには十分なレベルに達していない」ものが殆どなんですね。彼女が見て面白くなかった、興味がそそられなかったのは「一般ユーザーの心の響く何かをCEATECの展示メーカーは用意出来なかった。」ということを示唆します。
 メーカーがもしBtoBのみをターゲットにCEATECに出展していたなら、この感想を持たれても何の問題もありませんが、BtoCにリーチしようとしていたなら、明らかに失敗です。
 彼女の意見は、そんな事実を物語っていました。



 オレは彼女のレビューのおかげでお客さんに、ユーザーに出せるレベルのドキュメントが提供出来る。彼女は自分の不勉強を嘆いてもっと勉強しなくてはと思っている。


 でも、知識が無い・理解が無いことは仕事では立派に役立つし、その視点が無くてはできないことだってあるんです。彼女には申し訳ないですが、オレはこのまま彼女には頑張らないで「そのまま素人のまま」で居て欲しいと心から願っています。できれば、今後オレの関わるプロジェクトでは、彼女のように「素人のままで居られていつでも意見を言ってくれる人」を常にチーム内でキープしておいて欲しいなぁ、と思ったりもしました。まぁなかなか難しいことなんですけどね、予算とかもあるし。