ミッションたぶんPossible

どこにでもいるシステムエンジニアのなんでもない日記です。たぶん。

役に立つような立たないような特殊な業界本「同人業界で天下を取る本」



 GW最終日、アキバの同人ショップでこんな本を買ってきました。アキバBlogで記事を読んで気になっていたものを、会社の後輩が「技術本でコミケにサークル参加しましょう!」とか謎の発言をぶちまけて、実際に夏コミに申込までしちゃったもんだから、なんかの参考になるかなぁ、と見切り発車で買ってきたものです。この本自体も所謂「薄い本」、自費出版による同人誌に該当します。


 結論から言うと、オレに役立つ情報は全くありませんでしたw。でも読み物としては面白かったですね。


 この本を読む前に「同人業界」について、いくつか前提知識が必要です。

  • 同人イベントにはコミックマーケット*1COMIC1*2などが存在
  • 同人イベントで出展される同人誌は、成年向け*3二次創作*4が多い
  • 同人誌は一般的に流通する本と比べて非常に高額(自費出版・受注生産である都合)
  • 同人イベントでサークル(頒布側)参加する漫画家には大きく分けて3パターンが存在
    • 参加自体が目的
    • 商業作家の趣味もしくは商業作家の副業的位置づけ
    • 専業の同人作家(同人誌販売で生計を立てる人)
  • 同人イベント以外では、同人ショップ*5での委託販売も可能(手数料が発生)
  • 同人イベントに参加するサークルで、特に人気の高いサークルは「壁サークル」と呼ばれ、購入者が並びやすいように会場外周側に配置される
  • 「壁サークル」は一回のイベントで数千部単位で売り上げる
  • 人気の同人誌はスキャニングされたデータが違法アップロードされてネットで無料で配布されている事態が起こっている


 この本は「専業の同人作家」を目指すにあたっての心構えやノウハウを解説したものです。頒布対象も成年向け二次創作。どっちも目指してないオレには全く関係の無い話だった…。
 そうは言っても、普段は絶対に垣間見ることができない「超」特殊業界だけに、単に読み物として読んでもかなり面白いです。同人業界で生き抜くためのエッセンスがグーッと凝縮されている、というのはなんとなく分かりますし。


 内容はマンガを作るにあたっての精神論が主になりますが、中には

  • 納税をどのように行うべきか
  • 売れ残りの同人誌をどのように扱うべきか
  • 委託販売先をどのように選ぶか
  • アシスタントを雇うにはどうしたらよいか(広告、面接、雇用後の心構え、etc…)

なんてちょっと普通では知りえない情報も。こういうのは専業の同人作家を目指す人には役立つ情報でしょうね。


 もっとも、その辺の情報も、売れるようにならなきゃ役立てることができない訳で。コミケ等に参加するサークルの99.9%が赤字である、という事実を踏まえ、どうやって長期(10-30年)に渡って売れ続けるか、なんてのも解説されています。精神論が主になるのも、まずは人気作品を作るにはそこから入らないと駄目だってことなんでしょうね。

 個人的に興味深かったのは電子書籍販売のくだり。出版時の費用が抑えられ、かつ在庫リスクも抱えなくて済むので同人作家のように自費出版する人たちにとっては願ったり叶ったりの流通手法じゃないのかと思っていたんですが、全然売れないわあっという間にファイル共有ソフトでばら撒かれてしまうわで良いことがひとつもないようです。この辺は宣伝と割り切れば我慢できるかもしれませんが、心血注いで作ったものが心無い扱いをされているというのも、なんだか悲しい話です。なんとかなんないもんなんですかねぇ。



 この本、内容的には満足しているんですが、やっぱり不満なのが値段。



 B5判で50ページ程度の本に上記のような文字の大きさで書かれる情報量なのに1,050円もするんですよ! 2冊で2,100円!! リーン・スタートアップ1冊に満たない額でその情報量はあんまりじゃね!?

 …それだけ自費出版が高いってことでもあるんでしょうし、この著者の場合、同人誌であること自体がブランディングの一種のようなので、止むを得ないとは承知しているんですが、リーン・スタートアップを読んだ後だと、どうしてもその辺が腑に落ちない…。
 この点については、むしろリーン・スタートアップが非常にお買い得なんだ、と自分を一生懸命納得させています。


 リーン・スタートアップといえば、この本中に「アシスタントを雇う際の筆記試験例」が掲載されているのですが、それを試しにリーン・スタートアップで得た知識を基に回答してみたいと思います。…まだ読んでまもないので、理解度の乏しさからピントがずれてる可能性はありますが、まぁそこはご愛嬌ということで。


― 問い ―

 新しくオリジナルの消しゴムを作成して頒布しようと考えた。ネットで検索すと「5,000個から作成。値段は50万円〜」が最小単位で最安値、どこもそれと同等かそれ以上となってしまう。今回使えるお金は5,000円しかない。

 消しゴムを作るにはどうすればよいか?

― 模範解答 ―

 ネットではなく、電話帳や人脈を伝って小ロットで受注生産して貰える業者を探す

 …など

― タキガワの回答 ―

 消しゴムのデザイン案を複数、なるべく詳細に作成し、Web掲示やパンフレットを作成して同人イベントで無料配布する。

 その際「どのデザインなら買っても良いか?」をアンケート回答して貰う。得票数がもっとも多かったデザインのみを再度注文を取り、予め代金を受け取った上で生産依頼する、もしくは注文数の事実を以て融資の依頼、業者への後払い依頼を交渉する。

 もちろん、小ロットで生産してくれる業者の検索や、業者に対する小ロット生産依頼の交渉は別途並行で行っていく。

 売れるかどうか分からんものにいきなりお金突っ込んで作るんじゃなくて、ペーパーモックの段階を設け、ある程度ユーザーの反応を見ておく、という考え方です。スピード感でやや劣るかもしれませんが、人気作家であればネットを上手に活用することで原資の5,000円に手を着けずにユーザーの意見を吸い上げられると思うんですよね。



 黒い本が一作目、赤い本がその続編です。1冊1,050円で、オレが買ったCOMIC ZINというお店では最後の一冊だったので店頭購入は難しいかもしれませんが、通販ではまだ扱っているようです。興味があるようでしたら、値段はやや高いですが(←まだ言ってる)、良かったら読んでみて下さい。ちなみにオレは読んだらさっさと冒頭の後輩にあげちゃいました。きっと役立ててくれることでしょう。



*1:開催時期は8/中と12/末。盆と年の暮れ。

*2:開催期間はGW中

*3:要するにエロ本

*4:既存のマンガやアニメのキャラクターを引用して新しい物語を自身で作ること

*5:とらのあなメロンブックス、etc…、東京だと秋葉原や池袋、中野、新宿なんかに多い