ミッションたぶんPossible

どこにでもいるシステムエンジニアのなんでもない日記です。たぶん。

AEDや放射能を気にするのも良いけれど。

 松田直樹選手の死から一週間が経ちました。報道で流れる告別式の様子、選手たちが喪章を付けて試合に臨んだ週末のJリーグ、昨日の日韓戦。どれを見ても如何に彼が愛されていたかが感じ取れました。本当に日本サッカー界は大きな存在をひとつ失ったんだなぁ。改めてそんなことを実感した一週間でした。


 一方で彼の死とは直接関係のあるんだか無いんだかよく分からないところで盛り上がっている話題もありました。


 予想通りだったのは各運動施設へのAEDの設置。JFLの各チームに設置義務は無かったそうですが、これを期に義務化される可能性があるようです。オレは「AEDがあれば松田は助かったはずだ!」という安直な意見が蔓延しなければ良いなぁと思ってはいますが、AEDの重要性が認識されるのはとても大切な事です。できれば政府や自治体のサポートの下、広く普及してくれればと思います。


 ひどいのは「松田選手みたいな毎日体調チェックしているはずのスポーツ選手がある日突然心筋梗塞で死ぬはずが無い!これは福島原発放射能漏れのせいだ!!」とかトンデモ意見を繰り出してくる輩。久々に見ました、こいつら本物のアホです。根拠は?と聞くと「勘」とかほざくし。てめえが勝手にバカなのは一向に構わないんですが、バカ製造機のTwitterでそういうバカの病原菌を振りまかれてバカが増えたらこの人たちどう責任取ってくれるんでしょうか?


松田直樹選手の死因を被ばくにしたい人たち - Togetterまとめ




 どこの文献に放射能心筋梗塞の因果関係が書かれているのか持ってこいよカス!!


 お前の勘なんか糞の役にも立たんのじゃボケ!!!









 …すみません、エキサイトし過ぎました。ともかく、サッカーを、ましてや松田選手の死を自分の政治的主張の道具に使うのは止めて頂きたい。オレたちの愛するサッカーと、彼が所属したチームのサポーターが愛した松田直樹をそんな下らない主張で汚さないで欲しいんです。




 …と、そんなことよりも、松田選手の死をきっかけに考えるならAEDより…まぁ百万歩譲って放射能より、もっと大事で身近な事があるとオレ自身は思っています。どうしてその話題にならないのか不思議でしょうがない。具体的に言うと


 貴方の大事な人が目の前で同じ事態になったら何が出来ますか?





 大体において、人が心筋梗塞だったりクモ膜下出血だったりといった生活習慣に起因するクリティカルな疾患が発症するのは単純にその人が長く居る場所である可能性が一番高いはず。であれば自宅や職場で発生する可能性が高いんじゃないでしょうか。寝起きが一番危険という意見もあって、朝ちっとも起きてこないから様子見に行ったら眠った様に死んでた、なんてケースは結構あるそうです。過労死なんかそのパターンが多いみたいですね。


 スポーツ施設や大きなデパートやその他公共の場にならAEDは確かに置いてあるでしょう。でも貴方の家、AED置いてますか?そもそもその場にAEDがあったとして、ちゃんと扱えますか?確かにガイダンス音声は流れてそれに従えば良いのかもしれません。でも緊急時に一発でちゃんとできる自信あります?この春までライフガードだったオレの友人がAEDの練習してみたところ、人体に接着するシートのシールが上手くはがせず、かなりもたついて焦ったと言っていました。プロでさえそうなのに、何の練習もしないでちゃんと使えますか?


 オレが言いたいのは、AEDに頼るのも放射能が原因だと現実逃避するのも構わないけど、そんなことより具体的に自分の大事な人を両の手で守る術を身につけましょうよ、ということです。


 心臓マッサージ、やったことありますか?人工呼吸、やったことありますか?連れが倒れて周囲の助けが欲しい時どうやって頼んだら良いか分かります?救急車のちゃんとした呼び方知ってますか?血の止め方は?喉に餅が詰まったら?熱中症になったら?


 大事な人…親、子供、恋人、親友…が倒れて、交通事情で救急車が間に合わなかった時、あなたは「早く救急車が来てくれなかったから助からなかった。救急車が殺したんだ!」と叫びますか?







 オレは今の会社に入る前、都内のとある市営の屋内プールでバイトをしていました。いわゆる「ライフガード」という職業です。ただのバイトでしたけど、重大な疾患で溺れた人を救助した事もありましたし、実際に人工呼吸を行ったこともあります。*1そんな職場だったので、みんな必死で、自分の休憩時間を潰してまで練習していました。心肺蘇生法練習用の人形引っ張り出してきて、滑稽なくらいでかい声で指差し確認とかしながら。高校生からフリーターまで、とても時給1,000円に満たない仕事は思えないくらい。


 当時練習しない後輩を指導する際にどうやっていたか昔の事過ぎて覚えてないんですが、たしか仕事だから、とか、ライフガードはかくあるべき、みたいな話はちっとも効果が無かった記憶があります。それよりは「昔ここでこんな事故があった」「隣のプールでこんなことがあったらしい」とか事例を話す方が危機感を持ってくれました。あと「覚えておけばプールの外でも使えるから。大事な人に何かあった時に自分で守れるようにしなさい。」というような事も言った気がします。高校生とかだとピンと来ないみたいですけどねw。


 そのおかげで、というのもおかしな話ですが、オレは一通りの応急救護の技術を身につける事が出来ました。AEDは当時無かったので現時点で全く知識がありません。これは新たに覚える必要があるでしょう。


 多くの人はオレたちのような機会に恵まれてないので、おそらく非常時に自分の大事な人を守れない人が大半なんだと思います。じゃあ覚えるのがそんなにハードルが高いか、というとそうでもなくて、日本赤十字社が応急救護に関する知識や情報を公開していますから無料で調べられますし、その気になれば百戦錬磨のプロから非常に安価(教材費のみの場合が多い)で直接教わる事もできます。参考までに東京都のリンクを張っておきます。以下からご確認下さい。


講習に参加したい|日本赤十字社 東京都支部





 先週末、ライフガード時代の友人との宴席で松田選手の話題が出て、そこから昔話になった時、ふとそんなことを思いました。もし彼の死で何か教訓を得るのであれば、最も身近なところから見直してみて下さい。

*1:人命救助の経験を自慢話をしていると勘違いされると困るので一応断り書きを。ライフガードにとって唯一自慢できる事は「事故を起こさなかったこと」であり、「どんな事故でも起こってしまった以上は最大の恥」です。事故が起きたらどんな事情があれ針のむしろに座らされたような気持ちになります。