袂を別つ君の背に。
はじめに
オレの所属会社では最近になってまた退職者もしくは退職希望者の噂を多く耳にする様になりました。携帯電話も持ち込めない様な客先で常駐していても、そういう噂だけは相変わらず満員電車のすかしっ屁みたいに漂ってきますね、ホントろくでもない。ここで「これもやっぱり昨今の不況/地震のせいか…」と思うのが世間の倣いかも知れませんが、このIT業界という魔窟においてはさして珍しい話でもありません。オレも今の会社に入って10年近く経ちますが、連鎖反応的に人がバタバタと辞めて行くのは何度か体験しています。
そもそもIT業界は他の業界より離職率が高いと言われます。過剰労働、メンタルヘルス、人間関係、金銭問題、スキルアンマッチ、etc…。社員が100人もいれば通常でも2〜3ヶ月に1人くらいは退職して行きます。シンクロニシティって言うんですか、それがたまたま重なる事だってあるでしょう。勿論、この不況が個々人の不安を煽っているというのも当然あると思います。
退職者への対応
オレもかつては社の一部門をまかされている事がありました。で、うちの会社みたいに人月商売の派遣的SI会社の場合、一人辞める事は部門の売上計画において大ダメージになっちゃいます。期首に前ぶれなく部下が退職した日には、増員なんてそうそう出来る訳も無いし、そのままリカバリの手段無くズルズルと一年間過ごした挙げ句、期末に「すみませんでした」と頭を下げることになるわけです。
…まぁこんな頭で良かったらいくらでも下げますがなにか?とばかりに、その辺はあまり気にしない様にやってきました。(社長に聞かれたらめちゃくちゃ怒られるだろうな…)
そんな訳で部門長の頃は退職希望者と直前に話をする場を持つことが多かったんですが、オレの彼らに対する対応方針は非常にシンプルです。
前向きなら快く送り出す、少しでも後ろ向きだと感じたら全力で引き止める
勿論ケースバイケースで、いくら後ろ向きでもメンタルヘルスのように引き止める事がマイナスに働くこともあるので、何でもかんでも上記を適用している訳ではありませんが、出来るだけそうありたいと常に思っています。
当たり前の話ですが、これは結構大変です。というか、ほぼ不可能です。なんらかの理由で心が折れている人に「まぁそういうなちょっと待て、もう一度頑張ってみよう」と説得しても「はい分かりました、明日からまた頑張ります!」とはまず言ってくれません。場合によっては会社や人間に強い嫌悪を抱いていることもありますし、金銭的な事情が残留を許さない場合もあるでしょう。ですが、それ以外の事情…、例えば「仕事にやりがいを感じていない」「上の人から評価されない」「やりたいことが出来ない」「周囲の人と上手くいかない」といったような、会社自体の在り様や仕事の内容について不満を持っている場合には、オレでもなんとか対応できると思っています。…その代わり、それらをなんとかするのは、大抵滅茶苦茶シンドイですが。
でも、後ろ向きな理由で止める時、どうしてもその人に後悔が残る気がするんですよね。視点は会社の悪いところばかりに行ってしまう変なクセがついたままだし。最初は良くても結局そのうち移籍先の会社でも同じ事言い出して、またネガティブに会社を移ることを考え始める。負のスパイラルの発生です。若いうちは良くても歳取ったら転籍も難しくなるし、身動きできなくなってから「やっぱりあそこの方がましだった」とか言い出しても遅いんですよね。たぶんそういう人は一生仕事で少なからずつらい思いをしながら生きていく事になるでしょう。そういうのは止めさせてあげたいなぁと思っています。
反対に、目標や夢があって次のステップを踏み出す為に退職するというのは是非とも応援したいです。
「治療」よりも「予防」
オレの場合、「辞めたい」と切り出される前に出来るだけキャッチアップして、そこまで精神的に追い詰められてない段階で動きたいと思っていますし、実際にそうしてきたつもりです。もっとも手法が「飲ミニケーション」一択なので、相手がお酒飲めなかったりするとあっという間に手詰まりになってしまう、というのが弱点ではありますが。
これはメンタルヘルスとかも同様だと聞いた事があります。うつ病とかになってしまうと回復までに数年かかることもあるし、その間仕事できなければ命に関わります。もう単純に会社辞めたらOKというものでもありません。なので「会社だから」「仕事だから」とドライに線を引いてしまうと、もしかしたら人一人殺してしまう事にもなりかねません。どうやって防ぐかはそれこそ必死でやらざるを得ないし、出来る限りのことはする覚悟ではいます。
オレ自身この会社で10年近くいますから、転機についてはずーっと考え続けています。だからこそ「ネガティブな感情で辞めてしまうと絶対に後悔が残るはず、それだけはしたくない」と思い、確固たる決意が固まるまでは留まろうと今も会社に残っています。それが「よそはよそ、うちはうち」とはならないはず。自分の目標に向かって進むのであって、後ろ向きに逃げ出すようなことは止めて欲しい、そうなりそうな奴がいたら全力で考えを改めさせたいと思っています。「希望を信じたエンジニアを、オレは泣かせたくない。最後まで笑顔でいて欲しい。」*1って感じでしょうか。
…なんかこうやって書くと結構鬱陶しい奴ですね、オレ。まぁ性分なんでしゃーないっすわ。
袂を別つ君の背に
会社をやめていくかつての同僚に声を掛けるとしたら、別れの言葉じゃなくてエールでありたい。それは自分がそうして欲しいからこそです。彼らの背中に自信を持って言葉を投げかけられるよう、オレは今やれることはやっておきたいと思っています。
追記
そういえばこの間ちょっと凄い話を聞きました。うちの会社の人間がやはり今度退職するんですが、ここまで前向きかつ「立つ鳥あとを濁さず」を体現できるものかと感心しました。具体的にはこんないきさつだったそうです。
- まず社長と直接面談
- やりたいことがあるからと熱弁、退職の意向を伝えた
- そしたら社長も快く承諾してくれた
- だけじゃなくてやりたいことを実現できる様に社長自ら移籍希望先の会社に口利きをしてくれた
- 晴れて試験にも受かり内定ゲット、めでたく円満退職
オレの師匠が以前「恩は返したかもしれないけど無くなった訳じゃない」という言葉を口にしていた事があります。在籍した会社に完璧なまでに筋を通し、何の後腐れも無く、自分の夢の為に新たな一歩を踏み出せる。ここまで出来るなら本当に素晴らしいですね。こんなことオレには出来ない気がしますし、他人にここまでやれとはさすがに言えませんが、ひとつ理想の形を見せて貰ったと思っています。